温度のわずかな変化がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する
東南アジア熱帯地域のフタバガキ科林業樹種の苗木では、わずかな温度変化に樹木が敏感に応答し、葉の生産量を増減させる。気温の異なる複数の地域に苗畑を設置し、成長の異なる苗木を利用できるようにすることで、適正サイズの植栽用苗木の安定生産が期待できる。
背景・ねらい
フタバガキ科樹木は、東南アジア熱帯雨林の主要な構成樹木であり、重要な林業樹種である。持続的な林業経営には、適正サイズの植栽用苗木の安定供給が必要であるが、数年に一度だけ開花・結実し、種子の保存ができないフタバガキでは計画的な育苗が難しく、苗木の成長制御機構を理解し、適正サイズの苗木を安定生産する技術開発が求められている。そこで、成長の指標として葉の生産に着目し、苗畑での観測により得られた葉の生産量と環境条件の変化の因果関係を解析するとともに、人工気象器による操作実験を行うことで、フタバガキ科林業樹種の成長を制御する環境要因を特定する。成果の内容・特徴
- インターバル撮影が可能なカメラと気象測器を利用した観測システム(図1)によって、苗畑でのフタバガキ科林業樹種の苗木の葉の生産のタイミングを把握できる。
- これまで雨量の変化が葉の生産量の制御に重要であることが報告されてきたが、観測システムを透明なプラスチックシートで覆うことで雨量の変化を排除し、毎朝夕二回、一定量の水を与えて苗木を育てた場合にも葉の生産量は明瞭な増減を示した(図2)ことから、葉の生産量の増減は必ずしも水分量の変化に起因するものではない。
- 一方、葉の生産量と気温の変化は似ており(図2)、因果推定法であるConvergent Cross Mappingによる解析では、6日間の時間差を考慮した葉数から気温に対する予測精度(cross map skill: 0.20)は、データ順を入替えたサロゲートデータに対する予測精度の95%分位点(0.18)よりも高く、気温が葉の生産を制御する可能性を示す。
- フタバガキ科の一種であるNeobalanocarpus heimiiの50個体の苗木を用いた人工気象器による温度操作実験(湿度、光の強さ、灌水量は一定)では、低い生育温度(昼27˚C、夜24˚C)で栽培後、昼または夜の温度を5˚C高くすると、温度を高くした直後の葉の生産量が顕著に増加する(図3)。このことは、温度がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する要因のひとつであることを示しており、異なる気温条件で苗木を育てると成長量が変化することが予想される。
成果の活用面・留意点
- 長期間にわたる観察や環境を制御した条件下での成長量の測定が難しい熱帯樹木の成長制御機構の解明に資する実験手法として有用であり、温度による成長制御機構の理解は、温暖化が熱帯樹木の成長に与える影響評価に活用できる。
- 気温の異なる複数の場所に苗畑を設置し、苗畑ごとの苗木の成長量を変化させ出荷時期を分散させることによって、適正サイズの苗木を安定供給するための方法として応用できる。
- 本成果は、水分が十分に与えられた条件での苗木に対する温度の効果を明らかにしたものであり、乾燥条件下などその他の環境要因との相互作用についてはさらなる検討が必要である。
具体的データ
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図1 苗畑観測システム インターバル撮影が可能なデジタルカメラと気象測器を用いて、葉の生産のタイミングと気象データを取得する観測システムを開発。雨量の変化を排除するため、観測システムは透明なプラスチックシートで覆われている。
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図2 苗畑観測システムにより得られた葉の生産量と温度の関係 フタバガキ科林業樹種である(A)Shorea leprosulaと(B) Neobalanocarpus heimiiのそれぞれの葉の生産枚数と(C)日平均気温。濃い線と薄い線はそれぞれ7日間の移動平均と1日毎のデータを示す。
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図3 温度と葉の生産量の関係を調べるために行なった人工気象器による温度操作実験の結果 各Trxは、約3週間の期間を表す。Tr21以降は同一個体を用い、別の期間に実験を行った。上と下に記された温度は昼(7時から19時)と夜(19時から7時)の温度を示し、水色は基準とする低い生育温度、ピンクは基準の温度よりも5˚C高いことを表す。葉の生産量も、生育温度の高低に応じてピンクと水色で示す。
- Affiliation
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国際農研 林業領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 価値化林業
- 研究期間
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2020年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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小林 正樹 ( 林業領域 )
谷 尚樹 ( 林業領域 )
科研費研究者番号: 90343798Ng Kevin Kit Siong ( マレーシア森林研究所 )
Lee Soon Leong ( マレーシア森林研究所 )
Muhammad Norwati ( マレーシア森林研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Kobayashi M J et al. (2020) American Journal of Botany 107(11):1491–1503https://doi.org/10.1002/ajb2.1557
- 日本語PDF
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2020_C07_A3_ja_0.pdf683.54 KB
- English PDF
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- ポスターPDF
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。