45年超の長期連用試験から熱帯における畑地土壌炭素貯留量を算定
タイ農業局が保有する45年超の長期連用試験のデータを解析し土壌炭素貯留量を算定した。化学肥料や有機物は単独で施用するより両者を組み合わせることで大きい土壌炭素貯留量が得られる。また、砂質土壌では土壌炭素貯留量の増加は肥沃度の向上に寄与しキャッサバの収量を増加させる。
背景・ねらい
土壌は陸域最大の炭素貯留庫であり、わずかな変動であっても全球の炭素循環に大きな影響を与える。農地土壌における土壌炭素動態の解明には、同一の農地において異なる管理の影響を調査する長期連用試験が重要な役割を果たすが、熱帯湿潤地域においてはその数が限られている。そのため低緯度地域で一般に使用されている農地の土壌炭素動態モデルは、高緯度地域における研究に基づく。本研究では、東北タイのコンケンおよびナコン・ラチャシマ、東タイのラヨーンの3地点で45年にわたり継続している長期連用試験のデータから、化学肥料施用、有機物施用およびその組み合わせが土壌炭素貯留量に与える影響を定量的に示す。さらに、有機物施用、土壌炭素および基礎化学性、キャッサバの収量の関係を構造方程式モデルによって可視化する。
成果の内容・特徴
- 無施用の対照区と比較した土壌炭素貯留量は化学肥料および作物残渣の還元を単独で行った場合、それぞれ2.0 ± 2.1、および2.8 ± 2.0 (Mg C ha−1 0.2 m−1)でありその効果は限定的である(図1)。化学肥料と有機物の施用を組み合わせた場合に土壌炭素貯留量は増加し、化学肥料の施用を作物残渣の還元または堆肥の施用と組み合わせた場合、土壌炭素貯留量はそれぞれ5.6 ± 3.1、および10.1 ± 6.5 (Mg C ha−1 0.2 m−1)である。残渣の還元による新鮮有機物に比較して、安定した有機物の画分を多く含む堆肥の施用は土壌炭素貯留を促進する。
- 粘土質土壌では、化学肥料および有機物施用の土壌炭素濃度への影響は、表層0–0.2 mおよび0.2–0.4 mに集中し、それ以下の深度において有意な影響は認められない(図2)。一方砂質土壌では1.0 mまでの全ての深度において処理の影響は有意である。
- 有機物の施用は、砂質、粘土質を問わず土壌炭素を増加させる(図3)。また、砂質土壌においては土壌炭素の増加により可給態リン酸濃度や交換性カリウム濃度などの基礎化学性が向上し、キャッサバ収量が有意に増加する。すなわち、有機物施用は砂質土壌の肥沃度と作物収量向上への寄与が期待できる。一方、粘土質土壌では土壌炭素濃度とキャッサバ収量には有意な関係は認められない。
成果の活用面・留意点
- 本研究成果は、これまで研究の乏しかった低緯度地域において信頼性の高い土壌炭素貯留量の算定値を提供することにより、熱帯型炭素動態モデルの確立への貢献が期待される。
- 気候変動に関する政府間パネル (IPCC)では表層から0.3 m(あるいは耕起深度)までを土壌炭素貯留の算定基準としている。本研究の結果は、砂質土壌においてはさらに下層まで評価することが必要であることを示している。
- サトウキビやトウモロコシなどその他の主要畑作物における土壌炭素貯留と生産性の関係については検証が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合
- 研究期間
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2020~2024年度
- 研究担当者
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岩崎 真也 ( 農村開発領域 )
ORCID ID0000-0002-5015-7837科研費研究者番号: 40915261渡辺 武 ( 企画管理室 )
松本 成夫 ( 情報広報室 )
Tancharoen Somrutai ( タイ農業局 )
Luanmanee Suphakarn ( タイ農業局 )
Nobuntou Wanida ( タイ農業局 )
Amonpon Wanlee ( タイ農業局 )
Chumsuwan Netirat ( タイ農業局 )
Paisancharoen Kobkiet ( タイ農業局 )
Bumrung Saowaree ( タイ農業局 )
- ほか
- 発表論文等
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Tancharoen et al. (2024) Land Degradation & Developmenthttps://doi.org/10.1002/ldr.5310
- 日本語PDF
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2024_A01_ja.pdf715.27 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。