畑地土壌からの一酸化窒素および亜酸化窒素の放出に及ぼす施肥深度の影響
施肥域の深層化により畑土壌から大気への一酸化窒素放出量を大幅に削減可能である。施肥の深層化も10cm程度で十分の効果があり、それにより一酸化窒素放出量をほぼ無施肥土壌の水準にまで削減できる。
背景・ねらい
世界最大の化学肥料消費国となった中国をはじめとする食糧増産の必要に迫られる発展途上国においては、農耕地への化学肥料投入量が急速に増人しており、これにともなう環境負荷の増大が懸念されている。そのうち大気の環境に負荷を与える物質として、一酸化窒素(NO)および亜酸化窒素(N2O)が挙げられ、NOは光化学大気汚染や酸性雨、対流圏オゾン(温室効果ガス)の原因物質として、N2O は地球温暖化や成層圏オゾン層破壊の原因物質として知られている。これらの発生源として農耕地は無視できない存在であり、化石燃料由来のそれに匹敵する水準であると推定されている。
本研究では、このNOおよびN2Oの畑土壌からの放出抑制法を、施肥深度の効果に着目して、数値解析モデルおよび室内実験により検討する。モデルは既存の畑土壌中ガス濃度分布のデータをもとに作成し、これにより土壌中ガス濃度分布及びガス放出速度に及ぼすガス生成部深度の影響を推定する。室内実験では、施肥深度の異なる土壌カラム(深度1m、黒ボク上表層土)を用い、モデルによる推定結果を検証する。
成果の内容・特徴
- 数値解析モデル:NOではその生成部の深層化にともない、土壌表層部の濃度勾配が低下し(図1)、大気への放出速度も低下するのに対して(図2)、N2Oではそのいずれにも大きな影響を与えないことが推定される(図1,2)。
- 室内実験:NOでは土壌中濃度分布(図3)・大気への放出速度(図4)ともに、1.と同様の結果が得られる。施肥域を土壌表層から10cm深層部へ移動させることで、大気へNOの放出速度を無施肥区と同等レベルにまで低下させることが可能である(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で明確な効果の認められた施肥深度は、一部の従来施肥法のそれに対応するものであり、本成果の現場への応用も容易であると思われる。例えば側条施肥なども、肥料利用率向上の意味に加えて、NO放出削減の意味からも有効な施肥法である可能性が高い。
- NOの生成・消費の現象は各種の土壌条件に依存するが、比較的ガス拡散係数の高い黒ボク土壌を用い、かつ土壌深層部におけるNO生成に適した土壌水分環境下において今回の結果が得られたことから、その他の条件下においても同様の効果が期待できる。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 環境資源部
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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土壌・大気間の窒素動態 -NOおよびN2Oの動態に及ぼす土壌環境要因の解析-
- 研究期間
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平成9~10年度
- 研究担当者
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宝川 靖和 ( 環境資源部 )
- ほか
- 発表論文等
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宝川靖和、鶴田治雄、陽捷行 (1997) 土肥講要, 43, 236.
Hosen, Y., Tsuruta, H. and Minami, K. (1997) Proc. of SCOPE N Workshop of Effect of Human Distribution on Nitrogen Cycle in Asia, Nanjing, China, p.14.
宝川靖和、鶴田治雄、陽捷行 (1998) 土肥講要, 44, 215.
Hosen, Y., Tsurta, H. and Minami, K. (1998) ASA-CSSA-SSSA Annual MeetingAbstracts, 90, 338-339.
Hosen, Y., Tsuruta, H. and Minami, K. Nutrient Cycling in Agroecosystems (in press).
- 日本語PDF
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1998_07_A3_ja.pdf1.23 MB