炭化物の施用深度の違いは窒素溶脱量と水収支を左右する

関連プロジェクト
熱帯島嶼環境保全
要約
炭化物の施用量が同量であっても施用深度が異なると、硝酸態窒素溶脱量と水収支に差が生じる。表層および作土層全体の土壌に炭化物を施用すると、硝酸態窒素溶脱量が減少する傾向が認められる。一方、下層に施用する場合、硝酸態窒素溶脱の軽減効果は認められない。炭化物を適切な深度に施用することで、環境負荷の軽減が期待できる。

背景・ねらい

ハーバー・ボッシュ法の発明により⼤量⽣産が可能となった窒素肥料は⾷料増産を⽀える重要な農業資材であるが、化学肥料の⼤量投⼊による過剰な窒素溶脱が⽔圏の環境負荷等の問題を引き起している。特に地下⽔を飲料⽤⽔源としている開発途上地域や地下ダムの活⽤が広がっている島嶼地域では、地下⽔の硝酸汚染や⽣態系への影響などが懸念されており、窒素溶脱の軽減は喫緊の課題となっている。
農地への炭化物施用は炭素隔離に有効であるだけでなく、窒素溶脱を軽減する手法としても知られており、最適な施用量に関する研究がこれまでに多く行われている。しかし、最適な施用深度に関する研究は極めて少ない。
本研究では、土壌を充填した室内でのパイプ試験において、炭化物の施用深度の違いが窒素溶脱量に与える影響を明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  1. 施用量を10 t ha–1としてバガス炭を表層(深さ0–5 cm)、作土層(深さ0–30 cm)、下層(深さ25–30 cm)の土壌に混合する。各炭化物層のバガス炭重量比は表層施用と下層施用で1.57%、作土層施用で0.26%である。定期的に表面灌漑を行い、窒素肥料として粉体で硫酸アンモニウムを施用する。試験期間中のパイプからの排水量や硝酸態窒素溶脱量をバガス炭無施用条件と比較する(図1)。
  2. パイプ下端からの排水量および硝酸態窒素溶脱量は、各条件で異なる(図2)。表層施用により硝酸態窒素溶脱量は減少する傾向にある。作土層に炭化物を施用することにより排水量と硝酸態溶脱量は有意に減少する。下層施用では排水量および硝酸態窒素溶脱量のいずれにも有意な変化は認められない。
  3. 炭化物施用深度ごとの試験期間中の水収支の変化傾向を、灌水量、排水量およびパイプ内の土壌水分状態から求める(表1)。無施用に比べ、表層施用では蒸発量が減少する傾向があるのに対し、作土層施用では蒸発量が増加する傾向が見られる。
  4. 炭化物を表層および作土層の土壌に施用する場合、硝酸態窒素溶脱量が軽減する傾向にある。これは炭化物施用深度の差異が引き起こす土壌水分挙動変化に起因するものと推定される。

 

成果の活用面・留意点

  1. 炭化物を適切な深度に施用することで、硝酸態窒素の溶脱軽減が期待できる。また溶脱軽減に伴い、化学肥料使用量削減にも貢献できる可能性がある。
  2. 本試験の使用土壌・炭化物は国頭マージ、バガス炭であり、他の土壌・炭化物によっては、異なる結果になる可能性がある。
  3. 炭化物を表層、作土層に施用することで生じる硝酸態窒素溶脱量の変化のメカニズムについては、今後シミュレーションなどにより詳しく検証する必要がある。また、作物がある場合の炭化物の施用深度の影響評価も今後必要である。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 熱帯島嶼環境保全

研究期間

2021年度

研究担当者

濵田 耕佑 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

神田 隆志 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 60845634

中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 00749921

ほか
発表論文等

Hamada K, Nakamura S, Kanda T, Takahashi M. (2023) Effects of biochar application depth on nitrate leaching and soil water conditions. Environmental Technology:1–12.
https://doi.org/10.1080/09593330.2023.2283403

日本語PDF

2023_A07_ja.pdf1.72 MB

English PDF

2023_A07_en.pdf929.45 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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