タイの畑地土壌からの亜酸化窒素発生量の推定
熱帯にあるタイにおける作物栽培期間中に畑地土壌から発生する亜酸化窒素の施用窒素に対する比は0.08-0.48%であり、温帯と大差がなかった。
背景・ねらい
1997年12月の地球温暖化に関する京都会議において亜酸化窒素は削減すべき温室効果ガスの一つに定められた。農耕地土壌は亜酸化窒素の最大の人為的発生源であると認識されているものの、このガスの熱帯農耕地からの発生について測定例は非常に少なく、信頼できる発生量の推定が困難な状況にある。本研究は熱帯の畑地土壌からの亜酸化窒素発生量を推定するとともにその発生メカニズムを明らかにすることを目的としている。
成果の内容・特徴
- タイ国内の4地点で畑地土壌より発生する亜酸化窒素フラックスの経時変化を窒素肥料を施用した場合としなかった場合とについて測定した。測定地点はタイ中央部に2地点を東北部と北部にそれぞれ1地点を定めたが、それぞれ各地域の代表的な畑地土壌を選び、そこで飼料用トウモロコシを栽培した。窒素肥料については各地点の土壌の肥沃度と慣行に従い10a当たり4.69-7.5kgN施用した。作物栽培期間中に発生する亜酸化窒素の量は側条施肥を行った畝上で19.6-40.3N2O-Nmg/m2であり、窒素肥料無施用区で10.0-12.2N2O-Nmg/m2であった。両区との差より計算した施用窒素に対する亜酸化窒素発生量の比は0.080-0.48%であった(表1)。
- 作物栽培期間中の亜酸化窒素フラックスの経時変化は、窒素肥料施用によって速やかに上昇し1週間前後でピークに達した後に低下し、その後は低い値のまま推移した。亜酸化窒素のフラックスが大きい期間は土壌中で硝化が活発に起こっている期間と一致しているようであった。測定結果の例として、ナコンサワンにおける亜酸化窒素フラックスの経時変化と日平均気温と日降水量の推移を図1に、土壌中の無機窒素の動態を図2に示した。
- 以上の結果より、作物栽培期間中にタイの畑地土壌から発生する亜酸化窒素は発生量の点でも、施肥に対する応答の点でも温帯の畑地土壌から発生する亜酸化窒素と大きな違いはなかった。
成果の活用面・留意点
本成果は熱帯の農耕地土壌からの亜酸化窒素発生量の推定に利用できる。研究を進めている中で雨季の開始時に大きな亜酸化窒素フラックスが現れることが判った。年間の発生量を推定するうえで雨季開始時の発生量を把握することが今後必要である。
具体的データ
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表1 タイの畑地土壌から発生する亜酸化窒素
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- Affiliation
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国際農研 環境資源部
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タイ農業局
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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熱帯地域の農業生態系から発生する含窒素ガスの抑制技術に関する研究
- 研究期間
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平成9年度(平成7-11年)
- 研究担当者
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渡辺 武 ( 環境資源部 )
陽 捷行 ( 農業環境技術研究所 )
CHAIROJ Prapai ( タイ農業局 )
- ほか
- 発表論文等
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Nutrient Cycling in Agroecosystemsに投稿中
- 日本語PDF
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1997_09_A3_ja.pdf711.57 KB