下層土破砕処理による畑地土壌水分の有効利用技術
東北タイ緩斜面畑地において、サブソイラにより深さ50~60cmの下層土破砕処理を行うことにより、雨期の斜面流去水を土壌深層に蓄えることができ、土壌水分を増加させるとともに、土壌硬度を減少させて、作物生育を促進することができる。
背景・ねらい
東北タイの畑作は、なだらかな起伏が連続する丘陵地帯において営まれている。この地帯においては、降雨による表面流去水による土壌浸食が最も大きな問題であり、作物栽培のための表土と栄養分を洗い流して土地生産性を低下させている。一方、水利用の面からみても、流去水を十分に活用できないことは、資源の効率的利用の観点から改善が必要と考えられる。本研究は、緩斜面畑地において表面流去水を捕捉して、作物栽培に有効利用するための土壌処理技術を開発することを目的としている。
成果の内容・特徴
- 緩斜面畑地(斜度5%)において、トラクタに装着した振動型サブソイラにより雨期始めの5月に下層土破砕処理を行う。斜面に直角方向(等高線状)、間隔は120cmとして、ブレードにより深さ50~60cmまで亀裂を入れ、最下部は弾丸状の鉄塊により暗渠(直径15cm)を形成する(図1)。
- 作物の生育は下層土破砕処理により大幅に促進される。この効果は雨期作より乾期作において顕著に認められ、対照区が水分ストレスで萎凋し生育が阻害されるのに対して、下層土処理区では旺盛な生育を示す。処理の効果は当年度だけでなく、前年度に処理を行った圃場で次年度に作付けを行った場合においても、その程度は小さくなるが明らかである(表1)。
- 乾期における土壌水分の推移をテンシオメータにより深さ別に測定した結果、日数の経過に従って表層から下層の順に土壌水分張力が高くなって乾燥していくことが認められる。下層土破砕区では、とくに深層で水分が高く維持される(図2)。
- 乾期の不耕起栽培圃場の土壌硬度は、下層土破砕区でいずれの深度においても対照(無破砕)区より低い(表2)。
- 以上の結果より、下層土破砕処理は雨期の表面流去水を捕捉することにより、土壌水分の分布および土壌硬度に好適な影響を及ぼし、作物の生育を促進するものと推測される。
成果の活用面・留意点
- 下層土破砕処理の影響は、とくに土壌の攪乱が少ない不耕起栽培において顕著にあらわれる。
- 下層土破砕処理の効果を高めるためには、圃場の状況に応じて、施工時期や施工方法(方向・深さ・間隔等)を検討する必要がある。
- 作物の水分ストレスを緩和するので、雨期のドライスペル、乾期始めの乾燥を克服して合理的作付体系を構築するのに有効な手段である。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 生産利用部
- 予算区分
- 国際農業(東北タイ)
- 研究課題
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タイ東北部における土壌保全型ファーミングシステムの開発
- 研究期間
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平成12年度(7~12年度)
- 研究担当者
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椛木 信幸 ( 生産利用部 )
三浦 憲蔵 ( 農業研究センター )
- ほか
- 発表論文等
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Kabaki, N. (2000) Technologies for efficient and labor saving cropping system in Northeast Thailand. Proceeding "Workshop on Linkage between Biological and Social Science 2000" edited by ITCAD-JIRCAS.
- 日本語PDF
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2000_12_A3_ja.pdf981.74 KB