超音波処理はアグロバクテリウムの除菌に有効である
サトウキビのアグロバクテリウムを用いた形質転換において、一般の超音波洗浄機による超音波処理でアグロバクテリウムの菌密度を低下させ、除菌・選抜培養中の過剰増殖を抑制することができる。
背景・ねらい
植物のアグロバクテリウムを用いた形質転換では、アグロバクテリウムの接種、菌と対象とする組織・細胞との共存培養後に、アグロバクテリウムを除くための除菌操作が不可欠である。一般には、共存培養後に洗浄することにより組織・細胞に付着するアグロバクテリウムの菌密度を低くし、さらにカルベニシリン等の抗生物質を添加した培地上で培養することによって、除菌を行っている。しかし、除菌培養・選抜培養の過程で、アグロバクテリウムが再び過剰に増殖し、形質転換を行った組織・細胞に大きなダメージを与え、結果的に形質転換効率を低下させることもままあり、簡便で効果の高い除菌方法が求められている。
成果の内容・特徴
- アグロバクテリウム(菌株EHA101)をN6-2培地(表1)に縣濁し、超音波処理(5分間)を行う。この菌液50μlをMS-1培地に接種し、26°C(暗所)で培養する。4日後の培地上のコロニー数は超音波処理区で無処理区よりも著しく少なくなり、超音波処理によって生菌数が減少することが分かる(図1)。菌株LBA4404でもこれとほぼ同様の結果が得られる。
- アグロバクテリウム(菌株EHA101)をN6-2c培地に縣濁し、サトウキビ液体振とう培養細胞を加え振とう培養する。24時間後に培養細胞は滅菌水にて洗浄し、超音波処理を行う。培養細胞は共存培養培地MS-1cに移植し3日間培養した後、除菌培地MS-1eに移植する。2週間後に観察すると、超音波処理区では菌の過剰増殖は全く認められないが、無処理区では多数の過剰増殖が認められる(図2)。
- サトウキビ液体振とう培養細胞に超音波処理を行った後、MS-1培地上で培養する。2週間後のカルス重量では、超音波処理区と無処理区で差は認められない(表2)。また、このカルスを再分化培地MS-R9で培養しても、3週間後のシュート形成率に差は認められない(表3)。1~5分程度の超音波処理は、サトウキビ培養細胞の生育および再分化に対し悪影響を及ぼさない。
成果の活用面・留意点
- 超音波処理には市販の超音波洗浄機Ultrason Velvo Clear VS-150H(44kHz)を用いた。超音波処理の際、菌および培養細胞は50ml容量のプラスチックチューブ(ポリプロピレン製)に入れた。
- 本手法はサトウキビだけでなく、植物一般のアグロバクテリウムを用いた形質転換に広く利用できる可能性が高い。他の植物種で本手法を用いる場合、あらかじめ超音波処理が対象とする組織・細胞に及ぼす影響を確認しておく必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 沖縄支所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 基盤
- 研究課題
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サトウキビの効率的な形質転換体作出技術の開発
- 研究期間
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2002年度(2001~2005年度)
- 研究担当者
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松岡 誠 ( 農林水産省農林水産技術会議事務局 )
ARIFIN Noor Sugiharto ( 国際招へい研究員 )
寺内 方克 ( 沖縄支所 )
田村 泰章 ( 沖縄支所 )
谷尾 昌彦 ( 沖縄支所 )
- ほか
- 発表論文等
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松岡誠, N.S.アリフィン, 田村泰章, 谷尾昌彦, 寺内方克 (2002): アグロバクテリウムによるサトウキビ形質転換体の作出―超音波処理はアグロバクテリウムの除菌に有効である―.熱帯農業, 46(別2), 94-95.
- 日本語PDF
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