凍結剤を使用しない植物由来RNAの抽出保存手法を開発

関連プロジェクト
レジリエント作物
要約

インフィルトレーション法により植物葉の細胞間隙へ核酸安定化溶液を浸透させることで、凍結剤を使用しなくても葉のRNAおよび遺伝子発現の傾向が安定に保たれる。また、抽出後のRNAは二酸化ケイ素膜に結合させることにより凍結剤を使用せずに安定に保存できる。これらの技術により、液体窒素やドライアイスなどの入手が困難な開発途上地域の圃場などで得られる植物の遺伝子発現解析が容易になる。また、開発途上地域で得られたRNAを日本国内などの解析設備の整った実験室まで運搬することでゲノミクス解析の進展が期待できる。

背景・ねらい

 作物増産に向けて、開発途上地域における生産性の向上した作物の開発が急務となっている。ストレス耐性や収量向上に関わる形質は、遺伝情報を伝えるRNAの発現の変化を伴って発現することから、RNAの発現傾向の解析により、高いストレス耐性と関わるメカニズムの解明や、優れた収量をもつ作物の開発の加速化が期待される。しかし開発途上地域では、不安定なRNAの分解を防ぐために使用される液体窒素やドライアイスなどの凍結剤や超低温槽など、必要な機資材が限られており、植物の遺伝子発現解析を行うのは困難である。
 これまで、生物サンプルのRNAを安定に保つ核酸安定化溶液が市販されているが、植物においては、RNA抽出前の組織サンプルの異なる保存条件が遺伝子発現に与える影響に関する体系的な研究は行われておらず、最適なサンプル保存方法については断片的な知識しか得られていない。また、抽出後のRNAも不安定であり、凍結剤を使用せずに数日間安定に輸送する手法も確立されていない。本研究では、開発途上地域における遺伝子研究を加速化させるため、1) 開発途上地域の圃場から実験室まで凍結剤を利用せずにRNAと遺伝子発現の傾向を保ったまま植物葉組織を輸送する方法、および2) 開発途上地域から日本などの解析設備の整った国への輸送を念頭に置き、抽出したRNAを凍結剤を利用せずに安定に輸送する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  1. 圃場から実験室までサンプルを輸送するために新規開発した方法(インフィルトレーション法)では、圃場で育てたイネの葉を界面活性剤で洗浄した後、核酸安定化溶液を加えシリンジ内で加圧と減圧を繰り返すことにより葉の細胞の隙間に溶液を浸透させる(図1)。
  2. インフィルトレーション法によりイネの葉の細胞間隙に核酸安定化溶液を浸透させて4℃で5日間保存したサンプルは、核酸安定化溶液に浸し4℃で5日間保存したサンプルと比較して、液体窒素で凍結させて超低温槽で保存したサンプルと遺伝子発現の傾向が類似しており、サンプル保存方法としてより適切である(図2)。
  3. マダガスカルにある水田で育てられたイネの葉をインフィルトレーション法により冷蔵保存したサンプルを用いて遺伝子発現解析を行うと、生育不良のみられる圃場で栄養欠乏応答性遺伝子の発現が高い(図3)。
  4. RNAは、二酸化ケイ素膜と結合させることにより、少なくとも48時間以内は凍結剤を使用しなくても比較的安定に保存される(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. 本技術を用いることで、凍結剤などの機資材の限られる開発途上地域の植物サンプルにおいても、遺伝子発現解析が飛躍的に進むことが期待される。
  2. 核酸安定化溶液に葉サンプルを浸した状態の方がインフィルトレーション法による保存より適している植物種もあることから、対象種によって最適な保存条件の検討が必要である。
  3. 塩ストレスおよび低温ストレス応答性遺伝子についてはインフィルトレーション処理と低温での保存によって発現にバイアスが生じることから、これらのストレス関連の遺伝子発現解析における活用には注意を要する。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » レジリエント作物

交付金 » 第5期 » 理事長インセンティブ

研究期間

2022~2024年度

研究担当者

植田 佳明 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 70835181

ほか
発表論文等

Ueda (2024) Plant Methods 20: 187.
https://doi.org/10.1186/s13007-024-01311-2

日本語PDF

2024_B01_ja.pdf1.05 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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