生殖細胞凍結保存技術によりクルマエビ類の遺伝的多様性保全を図る

関連プロジェクト
熱帯水産養殖
国名
アジア
要約
卵の凍結保存技術が確立されていない魚介類において、生殖細胞の凍結保存は、全遺伝情報を保存できる唯一の手法となっている。開発した水産重要種クルマエビ類2種における生殖細胞凍結保存技術は、水生無脊椎動物で初の生殖細胞凍結保存技術である。

背景・ねらい

持続的な水産養殖の確立には、養殖集団の遺伝的劣化防止技術や、疾病に強い優良系統作出が必要であり、そのためには現存する遺伝的多様性を保存することが極めて重要である。近年、数種の魚類において、生殖細胞の凍結保存技術ならびに凍結保存した生殖細胞由来の精子・卵および次世代個体を作出する生殖細胞移植技術が開発され、卵の凍結保存ができない魚類において全遺伝情報を保存できる唯一の有効な手法となっている。しかし、水産上重要種が多い甲殻類ではこのような技術はこれまで開発されておらず、遺伝的多様性を保存するためには、水槽や生け簀で膨大な数の生きた個体を飼育し続ける以外に方法がない。このような課題に対し、本研究では、クルマエビ類に属するウシエビ(Penaeus monodon)およびバナナエビ(Fenneropenaeus merguiensis)の2種について、水生無脊椎動物で初となる生殖細胞凍結保存技術を開発する。

成果の内容・特徴

  1. 凍結保護剤として多く使用されるジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、塩化マグネシウム(MgCl2)の3種を比較した結果、ウシエビ・バナナエビの両種で、10%グリセロールまたは10% DMSOを用いることで凍結解凍後の生殖細胞において凍結していない区と同等の高い生残率が得られる(図1)。
  2. ウシエビでは凍結保護剤に10%グリセロールを、バナナエビでは10% DMSOを用いることで、他の凍結保護剤に比べて高い生殖細胞の回収率が得られる(図2)。
  3. 生残率と回収率を総合的に評価すると、ウシエビでは10%グリセロール、バナナエビでは10% DMSOが凍結保護材に適している。
  4. 両種ともに、長期保存には緩慢凍結保存法よりもガラス化凍結保存法が適している(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. 本法において生殖細胞は液体窒素保管容器の中で凍結保存できるため、本技術を用いることでウシエビ・バナナエビの遺伝的多様性保存が、生きた個体の継代飼育よりも省スペース・省労力かつ遺伝的劣化を伴わず半永久的に可能である。
  2. 生殖細胞を凍結保存することにより、養殖集団の遺伝的劣化防止や、優良系統作出の際に必要な遺伝育種材料を遺伝的多様性が失われる前に確保することが可能となり、持続的なクルマエビ類養殖技術につながる。
  3. 本報を基にすることで、水産重要種が多いクルマエビ類の他種においても、生殖細胞凍結保存技術が開発され、現存する遺伝的多様性を保存できると期待される。
  4. 凍結した生殖細胞から個体を再生する生殖細胞移植技術は、クルマエビ類を含む水生無脊椎動物ではまだ開発されていないため、個体再生には生殖細胞移植技術の開発が必要である。

具体的データ

  1. Fig1

    図1 生殖細胞の生残率
    異なるアルファベットは区間に有意差があることを示す(p< 0.05)。
    緩慢:緩慢凍結保存法。-1℃/分の速度で凍結する方法。
    ガラス化:ガラス化凍結保存法。細胞内の水分を脱水し凍結保護剤へ完全に置換したのちに
    液体窒素で急速に凍結する方法。

     

  2. Fig2

    図2 生殖細胞の回収率
    回収率は、凍結していない精巣をばらして回収される生きた生殖細胞の数を分母、
    各条件で凍結・解凍して得られた生きた生殖細胞の数を分子とした比率。
    異なるアルファベットは区間に有意差があることを示す(p< 0.05)。

     

  3. Fig3

    図3 長期間にわたる凍結後の生殖細胞の生残率
    異なるアルファベットは区間に有意差があることを示す(p< 0.05)。

     

    図はRakbanjong et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

研究

プログラム名

食料

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS » 世界戦略魚の作出を目指したタイ原産魚介類の家魚化と養魚法の構築

研究課題

SATREPS世界戦略魚

研究期間

2019~2023年度

研究担当者

Rakbanjong Natthida ( プリンスオブソンクラ大学 )

奥津 智之 ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 40456322

Chotigeat Wilaiwan ( プリンスオブソンクラ大学 )

Songnui Anida ( タイ水産局 )

Wonglapsuwan Monwadee ( プリンスオブソンクラ大学 )

ほか
発表論文等

Rakbanjong et al. (2021) Marine Biotechnology 23: 590−601

https://doi.org/10.1007/s10126-021-10048-1

日本語PDF

2021_B08_ja.pdf369.29 KB

English PDF

2021_B08_en.pdf298.06 KB

ポスターPDF

2021_B08_poster.pdf318.9 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

関連する研究成果情報