超低温ガラス化法によるタロ遺伝資源保存法の開発
熱帯性作物であるタロの遺伝資源について、超低温ガラス化法を用いた茎頂の長期保存技術を確立した。本技術は、種内の異なった系統への汎用性も高く、平均87%の生存率が安定して得られた。
背景・ねらい
熱帯・亜熱帯地域に多い栄養繁殖性作物の遺伝子源は従来圃場で保存されているが、自然災害等による消失の防止および労力・時間の節減のため省力的かつ安全な試験管内長期保存法の実用化が大いに望まれている。植物遺伝資源の長期保存法として有望な液体窒素を使った保存技術の多様化と簡易化が進み、保存できる植物種の数が寒帯・温帯性の作物を中心に飛躍的に増加してきた。しかしながら、熱帯作物については成功例もごく限られており、基礎技術の開発が必要である。
本研究では、熱帯・亜熱帯地域の重要な食用作物のひとつであるタロの茎頂を材料とし、超低温ガラス化法による保存法の諸条件を検討して、実用性の高い長期保存法の基礎技術の確立を目指した。
成果の内容・特徴
- 無菌培養したタロ(Colocasia esculenta(L.)Schott. var. antiquorum、品種エグイモ)の植物体から切り出した茎頂を材料に、超低温ガラス化法による保存法の諸条件を詳しく検討し、図1に示した方法が最も有効であると結論された。この方法により、液体窒素中で保存した後のタロ(品種エグイモ)茎頂の生存率の平均は100%(6茎頂、3反復の結果)であった。
- 特に、タロでは、ショ糖濃度を高めた培地で育成(コンデショニング)した植物体から切り出した茎頂を用いると、通常の培地(30g/1)で育成した場合に比べ、液体窒素で保存した後の生存率が向上するばかりでなく、安定する点が注目された(表1)。
- 同じサトイモ科の作物であるXanthosomaの2系統に同じ方法を適用したところ、120g/1のショ糖によるコンデショニングは適当ではなく、その効果には種間差がみられた(表1)。
- 本方法で液体窒素中に保存したタロの茎頂(写真右)は、カルスを形成することなく、MS基本培地上で容易に茎葉および根を再生した。処理した茎頂から得られた植物体を無処理のものと比較・観察したが、形態的異常は認められなかった(写真左)。
成果の活用面・留意点
本研究では、熱帯作物であるタロの茎頂の超低温保存に初めて成功した。ここで確立した超低温保存の基礎技術は、生存率が高く安定しておりタロ(Colocasia esculenta)遺伝資源の汎用性も高く、長期保存法としてジーバンク等での実用化検討試験に値する。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 沖縄支所
- 予算区分
- 国際農業[栄養繁殖性]
- 研究課題
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栄養繁殖性熱帯作物遺伝資源の特性評価と長期保存法の確立
- 研究期間
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平成8年度(平成4~11年度)
- 研究担当者
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高木 洋子 ( 沖縄支所 )
THINH Nguyen Tien ( 沖縄支所 )
仙北 俊弘 ( 沖縄支所 )
八島 茂夫 ( 沖縄支所 )
- ほか
- 発表論文等
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高木洋子 (1996) タロとパパイヤのガラス化法による超低温保存. 組織培養, 22(9): 376-380.
Takagi, H. et al. (1996) Cryopreservation of in vitro-grown shoot tips of taro (Colocasia esulenta (L.) Schott) by vitrification. 1. Investigation of basic condirions of vitrification procedure, Plant Cell Report, 16: 594-599.
- 日本語PDF
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1996_16_A3_ja.pdf802.21 KB