サヤインゲン品種‘黒種衣笠’で見つかった細胞質雄性不稔
サヤインゲン品種‘黒種衣笠’を種子親、‘ハイブシ’を花粉親として得られる雑種を栽培すると着莢が極めて不良となるが、逆交配のF1は正常に着莢し花粉稔性も高い。この不稔は‘黒種衣笠’の細胞質雄性不稔によるものであり、サヤインゲンのF1雑種を獲得するうえで有効である。
背景・ねらい
F1雑種が示すヘテロシスは作物育種に広く利用されており、JIRCAS沖縄支所が育成した耐暑性サヤインゲン品種‘ハイブシ’と他品種とのF1においても高温下で多収を示す結果が得られている。サヤインゲンのヘテロシスを実際の育種において利用するには雄性不稔細胞質の利用が有効である。
成果の内容・特徴
- ‘黒種衣笠’בハイブシ’の交配により得られるF1植物を25~28°Cの空調ガラス室で栽培すると花粉稔性(アセトカーミン染色による)は36.8%(27.8~41.0%)と半不稔を示す。一方、逆交配のF1は花粉稔性が83.8%と高く(表1)、着莢は正常である。したがって、観察される半不稔は‘黒種衣笠’の雄性不稔細胞質による。‘黒種衣笠’の有する稔性回復遺伝子は配偶体的に働く。
- ‘黒種衣笠’בハイブシ’F1植物の放任受粉による着莢率を128花について調査したところ0.8%で、25~28°Cの栽培条件下ではほとんど着莢しない。一方、蕾授粉(図1)によるF1בハイブシ’の戻交配の着莢率は30.0%である(表1)。
- 開花当日に除雄をしないで‘ハイブシ’花粉を戻交配すると(図2)、着莢率は90.0%である。同様にF1ב黒種衣笠’、F1×(‘ハイブシ’ב黒種衣笠’)の交配における着莢率はそれぞれ75.0%、53.6%であり、雌性不稔は認められない(表1)。
- (‘黒種衣笠’בハイブシ’)ב黒種衣笠’による戻交配世代では、半不稔と可稔が1:1に分離する(表2)。
成果の活用面・留意点
‘ハイブシ’とのF1品種の育成には、まず①‘ハイブシ’の雄性不稔系統を開発する、次に②‘黒種衣笠’の雄性不稔細胞質に対して胞子体的に働く稔性回復遺伝子を探索し、③雑種強勢が良く現れる系統(品種)に導入しなければならない。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 沖縄支所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常 基礎研究推進事業
- 研究課題
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サヤインゲン品種「ハイブシ」の耐暑性の他品種への導入
- 研究期間
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平成12年度(10~13年度)
- 研究担当者
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江川 宜伸 ( 沖縄支所 )
塚口 直史 ( 生物系特定産業技術研究推進機構 )
竹田 博之 ( 沖縄支所 )
鈴木 克己 ( 沖縄支所 )
- ほか
- 発表論文等
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インゲンマメの耐暑性に関する研究 9. サヤインゲン品種「ハイブシ」と「黒種衣笠」の品種間雑種に見られた不稔について. 熱帯農業, 44(別2), 81-82, (2000).
- 日本語PDF
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