航空機LiDARを用いたマングローブ老齢林バイオマスの推定精度の改善
フィリピンの広範囲をカバーする国レベルの航空機LiDARデータを用いたフィリピンのマングローブ老齢林のバイオマス推定式を開発した。開発した式により、従来式と比較して、大径木に特徴づけられる老齢林では推定精度の改善が可能となる。従来の式は、LiDARデータを林冠高に変換して、さらに林冠高をバイオマスに変換する必要があった。開発した式は、LiDARデータから直接的にバイオマスを推定する。
背景・ねらい
マングローブ林の炭素蓄積量を評価するためには、マングローブ林のバイオマスのモニタリングが不可欠であり、炭素循環の解明や気候変動研究を行う上で非常に重要である。しかし、マングローブ林は地域によって種の構成や樹木の高さなどが大きく異なるため、一般的な推定式では地上部バイオマスが過小評価されるなどの問題が生じる。
LiDAR (Light Detection and Ranging) はレーザー光を対象物に照射し距離や形状を測定する技術であり、これによりマングローブ林のバイオマスを非破壊的かつ広範囲に推定することが可能である。LiDARデータの利用は、広範囲を比較的短時間でカバーできることから、ブルーカーボンや気候変動の観点からマングローブの炭素量やバイオマスを推定する上で重要である。
マングローブ老齢林は、幹の胸高直径が大きい樹木が多く、従来の方法では正確な地上部バイオマスが推定できない可能性があることが既往の研究で示されている。本研究では、航空機により測定されたLiDARデータを用いてマングローブ老齢林の地上部バイオマス推定精度を改善する。
成果の内容・特徴
- フィリピン・パナイ島のカトゥンガン・イット・イバジェイ・エコパーク(KII エコパーク)のマングローブ老齢林において(図1)、平均林冠高(Hm)*と相対的な高さ(RH)**指標が計算される。
- Hmと地上部バイオマスを推定するために相対的な高さ(RH)指標が用いられる。
- RH指標を使用して、2つの方法で地上部バイオマスを推定した。 (i) 従来式:最適なRH指標を使用してHmを計算し、それをもとに既存の式(Suwa et al. 2021)を使用して地上部バイオマスが推定される。 (ii) 開発した式:新しく開発された式は最適なRH指標を用いて直接的に地上部バイオマスを推定する。
- HmとRH指標との関係を検証し、その後、従来式(地上部バイオマス=2.25Hm1.81(式3))を適用して地上部バイオマスを推定する。95パーセンタイルでの相対的な高さ(RH95)はHmと最もよく対応する(R2 = 0.79)。RH95を式3に適用すると、樹冠高の高いプロットでは地上部バイオマスが過小評価されることが分かる(R2 = 0.46)(図2、左)。
- RH95による地上部バイオマスの推定式は比較的高い精度を示す(図2、右:地上部バイオマス=0.02*RH953.56(式4)、R2 = 0.58)。
- 開発した式4により、KIIエコパークにおけるマングローブ老齢林の地上部バイオマスマップが得られる(図3)。
*平均林冠高(Hm):林冠上層の樹高の平均値。
**相対的な高さ(RH):LiDARより測定される高さの分布の指標。RH95はほぼ林冠高に相当する。
成果の活用面・留意点
- マングローブ老齢林のバイオマス測定への活用が期待できる。特に、LiDARデータを用いることで、広範囲かつ高精度な測定が可能となる。
- 測定、報告、検証(MRV)への貢献も可能であるが、単一変数だけでは地上部バイオマスを過小評価する可能性があるため、他の変数を含めることで更なる精度の向上が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 熱帯島嶼環境保全
- 研究期間
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2024年度
- 研究担当者
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Mandal Mohammad Shamim Hasan ( 林業領域 )
ORCID ID0000-0002-2696-0021諏訪 錬平 ( 林業領域 )
ORCID ID0000-0003-4401-5581科研費研究者番号: 40535986 - ほか
- 発表論文等
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Mandal et al. (2024) Eco. Res. 40(2), 120-132.https://doi.org/10.1111/1440-1703.12503参考文献: Suwa et al. (2021) Est. Coast. Shelf Sci. 248, 106937.
- 日本語PDF
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2024_A09_ja.pdf1.67 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。