地上部バイオマスを広域推定するためのマングローブモデルの開発

要約

アジア地域に分布するマングローブのバイオマス(Y)は、衛星画像などから測定される森林高(X)と換算式Y = 2.25X1.81から推定できる。マングローブが同程度の森林高の陸域熱帯林よりも著しく高いバイオマス量を有する要因は、胸高幹断面積の大きさによる。

背景・ねらい

マングローブ(図1)は熱帯・亜熱帯の汽水域に発達する生態系であり、植物の成長にストレスを与える高塩分かつ嫌気的な環境でも育つ特殊な樹木群によって構成される。近年、その炭素蓄積能の高さに注目が集まり、マングローブはブルーカーボンと呼ばれる海洋生態系に蓄積される炭素プールの主要な構成要素となっている。マングローブの炭素蓄積能を評価するには広域マッピングによるバイオマスの把握が必要となる。森林生態系では、衛星や航空機に搭載したレーザー測距システムLiDARによって森林高(森林の平均林冠高)をマッピングした後に、地上調査によって作成された換算式を適用してバイオマスを推定する手法が開発されているが、東・東南アジアのマングローブに特化したバイオマス換算モデルはない。そこでフィリピン、インドネシアおよび石垣島における調査結果に基づき、モデルの空白地帯であった東・東南アジアのマングローブに適用できるバイオマス換算モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  1. 同程度の森林高を有する場合、マングローブは陸域熱帯林に比べて約4倍大きいバイオマス量を示す(図2)ことから、森林高からバイオマスを推定するためには、陸域熱帯林とは異なるマングローブモデルを適用する必要がある。
  2. アジアのマングローブのバイオマス[Y (Mg/ha)] は、衛星や航空機による測定が可能な森林高 [X (m)]から、Y = 2.25X1.81 (R2 = 0.66)の換算式で推定できる(図2)。
  3. 同程度のバイオマスを有する場合、マングローブの胸高断面積合計(調査区内に含まれる樹木個体の1.3 mの高さにおける幹断面積の合計)は陸域熱帯林の約2倍(図3)、森林高は約1/2である(図2)。これは、同程度の森林高を有する場合、マングローブは陸域熱帯林よりも太い幹を持つ個体が密生している傾向によるものである。
  4. 衛星や航空機に搭載したレーザー測距システムLiDARによる森林高の測定値を2の換算式にあてはめることで、アジアのマングローブバイオマスを広域的かつ面的に推定できる。

成果の活用面・留意点

  1. 開発したマングローブモデルによって、アジアにおけるマングローブのバイオマスを地図化することで、炭素蓄積機能の地域レベルや国レベルでの広域評価に活用できる。
  2. 得られたマングローブモデルは、林冠が閉じている条件で成立するため、林冠が閉じていないマングローブ、矮性型のマングローブやニッパヤシなどに関しては異なる換算式の検討が必要である。
  3. 地上部バイオマスが約400 Mg/haを超えるような、巨木によって構成されるマングローブでは、本モデルではバイオマスが過小評価される傾向がみられる。 

具体的データ

  1. 図1 満潮時に冠水しているマングローブ

     

  2. 図2 森林高とバイオマスとの関係

    赤丸と実線は本研究で測定したマングローブ、黒丸と破線は陸域熱帯林のデータとモデル式(Saatchi et al. 2011 in PNAS)。
    マングローブモデル:Y = 2.25X1.81 (R2 = 0.66)、熱帯陸域森林モデル:Y = 0.31X2.06(R2 = 0.78)。

     

  3. 図3 胸高幹断面積合計とバイオマスの関係

    赤丸と実線は本研究で測定したマングローブ、黒丸と破線は陸域熱帯林のデータとモデル式(Mitchard et al. 2014 in Global Ecol. Biogeogr.)。マングローブモデル:Y = 2.63X1.16 (R2 = 0.75)、熱帯陸域森林モデル:Y = 2.31X1.46(R2 = 0.66)。

所属

国際農研 林業領域

分類

研究

国名

フィリピン

プログラム名

高付加価値化

予算区分
JST/JICA SATREPS コーラル・トライアングルにおけるブルーカーボン生態系とその多面的サービスの包括的評価と保全戦略
研究課題

マングローブの資源量と動態観測および利活用

研究期間

2020年度(2018~2020年度)

研究担当者

諏訪 錬平 ( 林業領域 )

ROLLON RENE ( フィリピン大学 )

ALBANO M. G. GIANNNINA ( フィリピン大学 )

BLANCO C. ARIEL ( フィリピン大学 )

SHARMA SAHADEV ( マラヤ大学 )

吉開 仁哉 ( 東京工業大学 )

灘岡 和夫 ( 東京工業大学 )

ADI S. NOVI ( インドネシア海洋水産省 )

ATI N. A. RETSU ( インドネシア海洋水産省 )

KUSUMANINGTYAS A. MARISKA ( インドネシア海洋水産省 )

KEPEL L. TERRY ( インドネシア海洋水産省 )

MALIAO J. RONALD ( アクラン州立大学 )

PRIMAVERA-TIROL H. YASMIN ( アクラン州立大学 )

ほか
発表論文等

Suwa et al. (2020). Estuarine, Coastal and Shelf Science.
https://doi.org/10.1016/j.ecss.2020.106937

日本語PDF

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English PDF

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2020_C08_A3_en.pdf424.36 KB

ポスターPDF

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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。