穂ばらみ期の地上分光計測データから収穫前にコメの収量が予測できる
穂ばらみ期の水稲群落上で分光計測を行うことで、収穫1カ月前に収量を予測することが可能である。さらに早い生育ステージ(幼穂形成期)でも低い精度で収量を予測できるが、開花後の成熟期に入ると予測は困難になる。収量の推定には、分光データのうち窒素とバイオマスに関連したレッドエッジ(700–760 nm)と近赤外(810–820 nm)の波長が重要である。
背景・ねらい
リモートセンシングは、水稲の生育診断や収量予測に有効な技術である。近年、ドローンをはじめとする無人航空機(UAV)の登場で、水稲の生育を低空から高頻度で観測することが可能になったが、収量の予測に適した観測時期やセンサ(波長域等)は明らかではない。そこで、将来的なドローンへの活用を目指し、地上において、異なる生育ステージの水稲の群落上で分光計測を行い、水稲の収量予測に最適なセンシング時期(生育ステージ)と分光波長域を明らかにする。
成果の内容・特徴
- ラオス国立農林業研究所稲研究センターにおいて、異なる生育ステージ(図1、T1: 幼穂形成期、T2: 穂ばらみ期、T3: 乳熟期)の水稲栽培試験圃場で地上分光計測を行い、分光データと水稲収量(籾収量)の回帰分析による収量の推定精度を比較する。回帰分析には、多波長連続波長(400–930 nm、531波長)の共線性の影響を受けない部分的最小二乗(PLS)回帰分析を用いる。
- 3つの生育ステージのうち、穂ばらみ期に最も高い推定精度(R2 = 0.843)とモデルの再現性(RPD>43)が確認されたことから、穂ばらみ期の地上分光計測により実用的な精度での収量予測が可能である(図2)。
- 幼穂形成期では、RPD値が1.316を示し、低い精度(R2 = 0.479)ではあるが、収量の予測が可能である。稲の葉身が黄色く変色する乳熟期以降は、収量の予測は困難である(図2)。
- 植物体の生長がピークに達する穂ばらみ期(図1)のPLS回帰分析から、レッドエッジ(700–760 nm)と近赤外(810–820 nm)の波長域が収量予測に重要な波長として選択された(図3)。これらの波長域は、植物体のバイオマスと窒素含有量に深い関連性があることが知られており、稲の栄養状況の推定に活用できる。
成果の活用面・留意点
- 穂ばらみ期に収量の予測が可能となることで、地域の農林事務所または市場関係者は、収穫時期1ヶ月前にその年のコメの生産量を把握し、コメの買取価格や流通の計画を検討できる。
- 精度は低いが幼穂形成期に収量の推定ができることで、生産農家は稲の栄養状況を把握し、追肥の必要性を判断する参考情報として活用できる。
- レッドエッジと近赤外の波長を計測できるカメラをUAVに搭載することで、広域的な収量予測への展開が期待できる。
- 本研究ではラオスの複数の栽培品種(6品種×3反復)を用いており、得られた成果は品種を超えて適用できる。ただし、他の地域の栽培品種(特に草高などの形質情報が大きく異なるもの)については同様の結果が得られるか検証する必要がある。
具体的データ
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図1 水稲の草丈と地上分光計測時の生育ステージ(T1, T2, T3)
稲画像データの出典:http://www.knowledgebank.irri.org/decision-tools/growth-stages-and-impo… -
図2 米収量の実測値とPLS回帰分析による予測値の関係
RMSECV: Leave-one-out法を用いたクロスバリデーションによる二乗平均平方根誤差
RPD: 回帰モデルの再現性の判定指標。判定基準は、(1) RPD <1.15:推定不可能、(2) 1.16–1.40:弱い相関あり、(3) 1.41–1.70:低い精度でスクリーニング可能、(4)1.71–2.42:スクリーニング可能、(5) >2.43:実用的な精度で推定可能 -
図3 地上分光データと穂ばらみ期(T2)のPLS回帰分析で選択された波長(赤線)
- Affiliation
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国際農研 社会科学領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » フードバリューチェーン
- 研究期間
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2018年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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川村 健介 ( 社会科学領域 )
池浦 弘 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001758Phongchanmixay Sengthong ( ラオス国立農林研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Kawamura K et al. (2018) Remote Sensing, 10(8):1249
- 日本語PDF
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- ポスターPDF
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