グルテニン蛋白質遺伝子からみた日本小麦の特異性

要約

小麦のグルテニンGlu-D1f 遺伝子は、世界的にみてきわめて稀な蛋白質遺伝子であるが、日本の小麦品種に特異的に高頻度で存在し、世界的にみて品質的に大きく異なる日本小麦の特異性を示すものである。その理由として、始祖効果および瓶首効果によるものと考えられる。

背景・ねらい

   製パンや製麺などの重要な品質・加工特性に関連する、コムギの種子貯蔵タンパク質の分析とその遺伝変異の解析により、日本のコムギ品種の遺伝的・品質的特徴を明らかにし、今後のコムギ育種の参考となる研究情報を得る目的で、コムギ種子貯蔵タンパク質・グルテニン遺伝子の遺伝変異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. グルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fは、パン文化圏である欧米品種のみならず、めん文化圏であるアジア品種も含む世界の小麦品種にはほとんどみられない、きわめて稀なグルテニン蛋白質遺伝子である(表1)。
  2. この稀なグルテニン蛋白質遺伝子Glu-D1fは、小麦粉の生地物性を弱くするので、パン物性には不適でうどんに適すると言われている蛋白質遺伝子である。中国品種ではわずか1.8%の低頻度で存在するに過ぎないが、日本の小麦品種に特異的に高頻度で存在し、その頻度は改良品種で35.1%、在来種では25.3%である(表1)。
  3. Glu-D1f遺伝子は、日本小麦品種を特徴づける重要なグルテニンの蛋白質遺伝子であり、同じ軟質小麦の中でも特に日本のうどんは中国のめんと比べても品質的に異なるので、日本小麦が世界的にみて品質的に大きく異なる特異性を示すものである。
  4. Glu-A1,B1,D1遺伝子座における高分子量・グルテニン蛋白質の遺伝子構成は、中国品種で29種類と幅広い遺伝変異を示すが、日本品種はわずか17 種類のみであり、日本小麦の遺伝変異は狭隘である(表2)。
  5. グルテニンGlu-D1f遺伝子が、日本品種に特異的に高頻度で存在すること、および中国小麦遺伝資源の幅広い遺伝変異と比べた日本小麦の遺伝的基盤の狭隘化は、中国から日本への小麦伝播時における限られた育種母材・遺伝資源による『始祖効果』および限られた一部のグルテニン遺伝子源の導入による『瓶首効果』と考えられる。

成果の活用面・留意点

世界の小麦遺伝資源をさらに広範に探索・導入・評価して、新たなグルテニン遺伝子の導入により、日本小麦品種の遺伝的基盤を、大幅に拡大することが重要である。

具体的データ

  1.  

    表1
  2.  

    表2
Affiliation

国際農研 食料利用部

分類

研究

予算区分
基 盤 〔穀物蛋白質評価〕
研究課題

穀物蛋白質の品質評価

研究期間

2002 ~ 2003 年度(2002 ~ 2005 年度)

研究担当者

中村 ( 食料利用部 )

ほか
発表論文等

中村 洋 (2002): 日本のコムギ種子貯蔵タンパク質・グルテニン遺伝子の遺伝変異とわが国における今後のコムギ品種改良. 農業技術, 57(3), 131-134.

中村 洋 (2002): コムギ・グルテニンタンパク質の遺伝変異とコムギ育種. 農業および園芸, 77(4), 475-480.

中村 洋 (2002): コムギ・グルテニンタンパク質の遺伝変異とコムギ育種. 農業および園芸, 77(4), 475-480.

Nakamura, H. and Fujimaki, H. (2003): By reason of the founder effect or a selective bottleneck, the specific alleles frequency of Japanese hexaploid wheat (Triticum aestivum L.) compared to the worldwide distribution of Glu-1 alleles. 10th International Wheat Genetics Symposium, 1, 459-462.

日本語PDF

2003_23_A3_ja.pdf2.12 MB

English PDF

2003_23_A4_en.pdf69.89 KB

関連する研究成果情報