植物の高温特異的合成プロモーターによる遺伝子発現法
植物ゲノムの網羅的な比較解析を行い、高温特異的に働くプロモーターを合成した。このプロモーターは、気候変動による温暖化に対応した農作物や、付加価値が高い農作物の開発への利用が期待できる。
背景・ねらい
これまで様々な視点から高温応答の研究がモデル植物であるシロイヌナズナで行われてきたが、より大きなゲノム情報を持つ農作物の高温応答に関する研究例は少なく、高温応答の基礎研究を農作物の育種に活用することは難しかった。近年の技術開発によって、シロイヌナズナだけでなく、様々な農作物においてもゲノム情報やゲノム編集技術等の利用が容易になり、最新情報や技術を活用したゲノム育種が可能となってきた。本研究では、シロイヌナズナ、ダイズ、イネ、トウモロコシのゲノムを網羅的に比較解析して、高温環境下の遺伝子発現を調節する合成プロモーターを作製する。この研究によって作製される合成プロモーターは、高温障害が懸念される地域の作物開発や、温度管理された植物工場で栽培される付加価値が高い作物開発へ活用されることが期待される。
成果の内容・特徴
- 4種(シロイヌナズナ、ダイズ、イネ、トウモロコシ)の転写調節領域におけるDNA配列の網羅的な比較解析を基に設計された高温誘導性合成プロモーターには、それぞれの植物に特徴的な熱ショックエレメントが含まれる。
- 合成プロモーターに含まれる熱ショックエレメントは、低温や乾燥などの環境ストレスに対する応答が報告されていたが、本研究で合成したプロモーターは高温特異的に機能する。合成したプロモーターの高温特異性は、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を合成プロモーターにつなぎ合わせた形質転換シロイヌナズナを用いて、高温、低温、乾燥、ABA処理を行うことで検証できる(図1)。
- 本研究で合成したプロモーターは、赤外線レーザー照射による温度上昇に対しても機能する(図2)。対象となる細胞だけにレーザー照射を行い、プロモーターに連結した目的遺伝子を発現させることで、個々の細胞で特異的に機能する遺伝子の解析や細胞間相互作用の解析も可能である。
成果の活用面・留意点
- 本研究で設計した合成プロモーターは、ゲノム編集技術等を利用することで、高温耐性遺伝子を制御することが可能なため、気候変動による温暖化に対応した農作物の開発に活用されることが期待できる。
- 本研究で設計した合成プロモーターは、植物工場の温度管理だけで、一過的に遺伝子発現を調節することが可能である。例えば、出荷前に温室の温度をあげることで、付加価値を高くできる遺伝子(高ビタミン含量に関連する遺伝子等)の発現を制御できるため、健康志向等のニーズに対応した農作物の開発に活用されることが期待できる。一過的な遺伝子発現調節は、恒常的に遺伝子が機能すると起こり得る成長抑制等の副作用を抑えることができる。
具体的データ
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設計した合成プロモーターにβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子をつなぎ合わせ、形質転換シロイヌナズナを作出した。この植物を高温、低温、乾燥、ABA処理した後、GUS遺伝子のmRNAの蓄積量を定量PCR法で解析した。また、それぞれの処理におけるマーカー遺伝子(高温:AtHSP22.0、低温:AtGolS3、乾燥:cor15A、ABA:rd29A)の発現解析も行い、合成プロモーターの高温特異性を検証した。A、Bは実験に用いた異なる系統。 -
形質転換シロイヌナズナの根に赤外線レーザーを照射した後、GUS活性を検出した。赤外線レーザーを照射した細胞でのみ、青色に染色されたGUS活性が検出された。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » アフリカ食料
受託 » JST 戦略的創造研究推進事業 » ALCA(先端的低炭素化技術開発)
- 研究期間
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2016年度(2014~2016年度)
- 研究担当者
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圓山 恭之進 ( 生物資源・利用領域 )
小賀田 拓也 ( 生物資源・利用領域 )
金森 紀仁 ( 生物資源・利用領域 )
科研費研究者番号: 30455258後藤 新吾 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )
山本 義治 ( 岐阜大学 )
科研費研究者番号: 50301784浦和 博子 ( 岐阜聖徳学園大学 )
井内 聖 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 90312256浦野 薫 ( 理化学研究所 )
櫻井 哲也 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 90415167榊原 均 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 20242852篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 20124216篠崎 和子 ( 東京大学 )
ORCID ID0000-0002-0249-8258 - ほか
- 発表論文等
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Maruyama K et al. (2016) Plant J
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