根系分布からみた熱帯アジアの陸稲の水ストレス高感受性
熱帯アジアの陸稲は根系分布が一般に浅く、水ストレス下においても深層の根長密度が増加せず、根長あたりの水吸収速度も高まらないため、水ストレスに対して感受性が高い。燐酸施肥は深層での根の形成を促進し、水吸収を高める。
背景・ねらい
熱帯アジアにおいて灌漑下での米の増産は可灌漑地と可利用水資源の減少によって抑制される傾向にある。このため、陸稲など非灌漑下の米生産性の向上と安定化は増加する米の需要を満たすための重要な課題である。水と養分の可給性の低さが現在の陸稲の低収量(1.2t/ha)の主要な原因であると考えられるが、陸稲の水吸収特性や窒素・燐酸などの養分と水吸収の相互作用についての理解は不充分である。そこで、水ストレス下における陸稲の根形態と水吸収の特性及び根形態に及ぼす窒素・燐酸施肥の影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 幼穂形成期~成熟期の水吸収量は土壌水分に敏感に反応し、畑無ストレス条件下(土壌水ポテンシャル-0.03MPa)でも湛水条件下に比べ大きく低下し、畑ストレス下(土壌水ポテンシャル-0.1MPa)ではさらに低下する(図1)。これに対し、窒素吸収は畑ストレス下でも比較的高く維持され、穂への転流が小さくなるのにともない、茎と葉に集積する。吸収された窒素の利用効率と生産性の向上には、水吸収能の改善が重要である。
- 無潅水下の強い水ストレスに対する陸稲の感受性は、深層からの水吸収能の低さによる(図2)。この原因は、陸稲ではトウモロコシに比較してストレス下で深層での根長増加が小さいこと(図3)と、根長当たりの吸収速度の低いことによる。
- インド、フィリピン、タイの陸稲栽培地6地点での30cm以深の根長分布は平均20%であり、他の畑作物に比較し一般に浅い。深くに貫通する冠根は、主に初期分けつの低位節間に由来しており、これら初期の冠根の生育促進が深根の形成に重要である。
- 根の形態的発達は、窒素施肥によって層位全体で根長密度が高くなる傾向にある(図4)。また、燐酸施肥により低位節間からの冠根が発達し根長分布が深くなることより、深層の水吸収を促進する。
成果の活用面・留意点
水ストレスの影響を軽減するための陸稲施肥管理の確立に資する。また、耐干性育種の基礎的知見となる。
具体的データ
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(水吸収量は土壌水分の変化量より推定した) -
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- 所属
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国際農研 環境資源部
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国際稲研究所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 政府開発援助等拠出金研究
- 研究課題
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熱帯における水分ストレス下での稲生産の安定化
- 研究期間
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平成6~11年
- 研究担当者
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近藤 始彦 ( 環境資源部 )
MURTY Maddala V. R. ( 国際稲研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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M. Kondo et al. Approaches in plant-soil interaction to improve upland rice production. In Proceedings of International Symposium “World food security and crop production technologies for tomorrow” 8-9 Oct 1998, Kyoto, Japan, P 221-22.
- 日本語PDF
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1999_05_A3_ja.pdf653.83 KB