熱帯地域のイネ主力23品種における高温感受性と開花時刻の比較

要約

熱帯地域でのイネ主力23品種について開花時の高温感受性と開花時刻を比較すると、高温感受性には大きな品種間差がみられるが、開花時刻に関しては品種間に大きな差がなく、早朝開花性を有する品種は存在しない。

背景・ねらい

イネは開花時に最も高温感受性が高く、現在熱帯や亜熱帯で栽培されている主力品種は、今後の温暖化の進行により高温不稔を誘発する異常高温に遭遇する頻度が高くなる可能性がある。高温耐性の向上や開花時刻の早朝化は開花時の高温不稔の軽減に有効である。熱帯・亜熱帯の各地域での主力23品種に関して、開花時の高温感受性と開花時刻を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 東南アジア・南アジア・西アフリカ・中南米の各地域での主力23品種について、穂を開花当日に38°の高温に6時間さらしたところ、稔実率に大きな品種間差が見られる(表1、データ一部省略)。
  2. インドネシアの主力品種Ciherangやインドの主力品種Sambha Mahsuriはこれまで高温耐性が最も強いとされてきた在来種N22と同程度の高い稔実率を示し、有望な高温耐性の遺伝資源である(表1)。
  3. 中南米で広く栽培されているFedearoz50は中程度の高温耐性を示す(表1)。
  4. 西アフリカでの主力品種であるSahel329やNerica L-19、タイの主力品種であるKDML105は、高温感受性品種のMoroberekanと同様の低い稔実率を示す(表1)。
  5. 開花時刻を南京11号の早朝開花系統(Nanjing11+qEMF3:平成26年度成果情報候補、農研機構作物研究所)と比較すると、Nanjing11+qEMF3と同程度の早朝開花性を示す品種は存在しない(図1)。
  6. Nanjing11+qEMF3は、これまで早朝開花性の育種素材として考えられてきた栽培種O. glaberrima(CG14)が開花を開始する前に、ほぼ開花を終える(図1)。本系統はこれまでに報告されている品種では達成できなかったレベルで、開花時刻を早めることができる有望な早朝開花性系統であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  1. 高温耐性や早朝開花性のQTLに関するDNAマーカーが開発されているため、開花時の高温感受性品種および開花時刻の遅い品種に対して、これらのQTLを付与するDNAマーカー育種が可能である。
  2. 高温感受性が高く、早朝開花性も有さないSahel329、Nerica L-19、KDML105などには高温耐性あるいは早朝開花性を導入する育種が有効であると考えられる。
  3. 主力品種の高温感受性と開花時刻をそれぞれIRRIの人工気象室とガラス温室で調査した結果であり、実際の現地圃場での開花期の気温や開花時刻を考慮に入れた試験ではない。

具体的データ

  1. 表1 世界各地の主力23品種と高温耐性
    表1 世界各地の主力23品種と高温耐性

    開花当日の9-15時までの6時間、30°(対照区)と38°(高温区)の人工気象室に入れ、開花した頴花について種子稔性を調査した。湿度は60-70%に保った。異なるアルファベットは、Tukey testでの有意差(5%レベル)を示す。
    1 高温耐性のチェック品種(在来種)、
    2 高温感受性のチェック品種(陸稲)。表に示した以外の15品種のデータは省略。

  2. 図1 南京11号の早朝開花系統(Nanjing11+qEMF3)と各主力品種との開花時刻の比較

    図1 南京11号の早朝開花系統(Nanjing11+qEMF3)と各主力品種との開花時刻の比較
    バーの左端、中央付近の黒点(●)、右端は、調査日に開花した穎花の積算で10%、50%、90%が開花した時刻を示す。最低3日の平均値±標準誤差。品種/系統名の左側の異なるアルファベットは、Tukey testでの有意差(5%レベル)を示す。IRRIのガラス温室でのポット試験の結果。

Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

研究B

研究プロジェクト
プログラム名

資源環境管理

予算区分

交付金 » 気候変動対応

拠出金 » IRRI-日本共同研究プロジェクト

研究期間

2014年度(2010~2014年度)

研究担当者

石丸 ( 生物資源・利用領域 )

佐々木 和浩 ( 東京大学 )

科研費研究者番号: 70513688

平林 秀介 ( 農研機構 作物研究所 )

Gannaban Ritchel B. ( 国際稲研究所 )

Oane W. ( 国際稲研究所 )

Shi W. ( 国際稲研究所 )

Jagadish Krishna S. V. ( 国際稲研究所 )

ほか
発表論文等

Shi et al. Crop Sci.

https://doi.org/10.2135/cropsci2014.01.0054

Hirabayashi et al. (2014) J. Exp. Bot.

https://doi.org/10.1093/jxb/eru474

日本語PDF

2014_A03_A3_ja.pdf198.67 KB

2014_A03_A4_ja.pdf335.4 KB

English PDF

2014_A03_A3_en.pdf49.14 KB

2014_A03_A4_en.pdf96.21 KB

ポスターPDF

2014_A03_poster.pdf273.93 KB

関連する研究成果情報