国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

熱帯のイネ品種の遺伝的背景を持つ早朝開花性準同質遺伝子系統の育成

要約

インド型品種IR64を遺伝的背景にイネ野生種Oryza officinalisに由来し第3染色体に座乗するQTL(qEMF3)を導入した準同質遺伝子系統IR64+qEMF3は、IR64に比べ熱帯での圃場条件では開花時刻が2時間早まり、熱帯での開花時高温不稔の軽減に向けた育種素材となる。

背景・ねらい

温暖化により将来より多くの発生が懸念されている開花時の高温不稔軽減に向けて、野生種の遺伝子を用い、インディカ品種IR64の開花時刻を気温の低い早朝に調節する。イネ野生種O. officinalis由来の早朝開花性QTL(qEMF3、平成26年度研究成果情報、農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所)をDNAマーカー選抜によりIR64に導入し、準同質遺伝子系統(Near-isogenic line; NIL)を育成する。育成されたNILを気温上昇の異なる環境条件に置き、開花パターンの変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. イネ野生種O. officinalis由来で第3染色体に座乗する早朝開花性のQTL (qEMF3)を、近傍のSSRマーカー(RM14360, RM14374, RM14394)を用いてIR64に導入し、IR64の遺伝的背景を持つNIL (IR64+qEMF3)を育成する(図1A)。
  2. 国際稲研究所(ロスバニョス、フィリピン)の圃場条件(2013年雨季及び2014年乾季)では、IR64+qEMF3はIR64に比べて開花時刻が2時間早まる(図1B)。
  3. 人工気象室を用い、朝6時から正午にかけて25°Cから40°Cに気温を上昇させる条件では、IR64の開花ピークは11時頃、IR64+qEMF3は8時半頃である(図2A)。高温不稔の誘発が懸念される35°Cに達する前にIR64+qEMF3は開花を終える。
  4. 収穫期の不稔率は、IR64では約55%、IR64+qEMF3では約10%であり、有意な差が見られる(図2B)。
  5. その他の気温上昇設定(朝6時に25°Cから午後2時に40°C、並びに朝6時に30°Cから午後2時に40°C)においても、IR64+qEMF3の開花は、高温不稔の誘発が懸念される35°Cに達するまでに開花をほぼ終える(データ省略)。

成果の活用面・留意点

  1. 早朝開花性のQTL, qEMF3は農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所で同定されたものである。一方、本情報はqEMF3をマーカー選抜により広域適応性を持つIR64に導入し、熱帯条件のIRRIでの評価に基づき、開花パターンの変化を示すものである。
  2. IR64は熱帯・亜熱帯で広域適応性を示すことから、それらの高温障害地域での高温不稔軽減の実証試験に用いることができる。
  3. qEMF3がもたらす収量等の農業形質への影響については、今後調査が必要である。
  4. IR64+qEMF3の準同質遺伝系統の種子分譲については、JIRCAS企画調整部情報広報室に問い合わせる。

具体的データ

  1. 図1 早朝開花系統(IR64+qEMF3)の遺伝子型模式図(A)とIR64との開花時刻の比較(B)
    図1 早朝開花系統(IR64+qEMF3)の遺伝子型模式図(A)とIR64との開花時刻の比較(B)
    (A) 灰色部分はqEMF3の領域で、白部分はIR64に由来する染色体領域。Aの染色体上の横線は、用いたSSRマーカーの位置を示す。
    (B) 調査当日に開花する頴花の50%が開花する時刻を夜明けからの経過時間で表示。値は3又は4日間の調査の平均値でバーは標準誤差。**はt検定で1%有意であることを示す。
  2. 図2 早朝開花系統の高温条件下での開花特性(A)と不稔率(B)
    図2 早朝開花系統の高温条件下での開花特性(A)と不稔率(B)
    (A)長方形の左端、中央付近のひし形(◆)、及び右端は、それぞれ、調査当日に開花した頴花のうち積算で10%、50%、90%が開花した時刻を示す。相対湿度は60%、光は朝6時から午後7時まで光合成光量子密度1000µmol m-2s-1に保った。
    (B) 収穫時の不稔率の比較 縦軸は、3日間の実験で調査した頴花の収穫時の平均種子不稔率で、バーは標準誤差で示す。*はt検定で5%有意であることを示す。
所属

国際農研生物資源・利用領域

分類

研究A

研究プロジェクト

[気候変動対応]気候変動に対応した開発途上地域の農業技術開発

プログラム名

資源環境管理

予算区分

交付金気候変動対応

拠出金IRRI-日本共同研究プロジェクト

研究期間

2014年度(2010~2014年度)

研究担当者
  • 石丸 (生物資源・利用領域)
  • 佐々木 和浩 (東京大学)
  • 平林 秀介 (農研機構 作物研究所)
  • 小林 伸哉 (農研機構 次世代作物開発研究センター)
  • 藤田 大輔 (農研機構 作物研究所)
  • Gannaban Ritchel B. (国際稲研究所)
  • Miras Monaliza A. (フィリピン大学ロスバニョス校)
  • Mendioro Merlyn S. (フィリピン大学ロスバニョス校)
  • Simon Eliza Vie (国際稲研究所)
  • Lumanglas Patrick D. (国際稲研究所)
  • Jagadish Krishna S. V. (国際稲研究所)
  • 発表論文等

    Hirabayashi et al. (2014) J. Exp. Bot. https://doi.org/10.1093/jxb/eru474

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