出穂性の異なるIR64の準同質遺伝子系統群
イネ(Oryza sativa L.)品種IR64の遺伝的背景をもち到穂日数が異なる5つの準同質遺伝子系統は、IR64の栽培適応範囲の拡大や育種素材として活用できる。
背景・ねらい
国際稲研究所(IRRI)で育成されたインド型水稲品種IR64は、高品質で病虫害に強く、広く熱帯地域で普及している。IR64のさらなる遺伝的改良を通して発展途上国における食糧安定生産を実現するため、New Plant Type品種や日本型品種由来の有用遺伝子を導入し、到穂日数の異なる準同質遺伝子系統群を育成し、遺伝的要因を明らかにしつつ育種素材の開発あるいはIR64の栽培適応範囲の拡大を図る。
成果の内容・特徴
- IRRI(フィリピン)との共同研究で育成した準同質遺伝子系統群は、早生3、晩生2の合計5系統からなる(表1)。
- フィリピンの雨季栽培で、早生のものはIR64に比べて5日、晩生のものは10日ほどの違いがある。
- これらの準同質遺伝子系統群は、4種類の遺伝子供与親に由来する異なる5つの量的遺伝子座(QTL)をそれぞれ一個ずつ有する(図1)。
- それぞれのQTLは、第6(2系統)、8(1系統)、11(2系統)染色体上に座乗している。
成果の活用面・留意点
- 育成された系統は、各国で普及されているインド型品種のIR64が遺伝的背景となっていることから、熱帯等の環境条件に適しており、途上国での食糧安定生産に寄与する育種素材や品種候補系統として活用できる。
- またこれらの準同質遺伝子系統群は、これまでよりもIR64の栽培適応地域の拡大に役立てることができる。
- 到穂日数が早い系統は、高温や乾燥など非生物的ストレス回避型の育種素材として、到穂日数が遅い系統は高バイオマス・高収量の育種素材として活用できる。
- 育成された系統は、遺伝解析のほか遺伝子・環境相互作用解析などの実験材料として利用できる。
- 各QTLのDNAマーカー情報は、遺伝解析やマーカー選抜に活用できる。
- 出穂性以外の形質についてもIR64とは異なる系統もあり、導入したQTLの効果によるものか、あるいは導入した染色体領域上の他の遺伝子によるものかを確認する必要がある。
- 準同質遺伝系統の分譲については、JIRCAS技術促進科に問い合わせる。
具体的データ
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到穂日数は2010年雨季、それ以外の農業形質は2010年乾季のIRRI(フィリピン、ロスバニョス)でのデータ(平均±標準偏差)。 *はDunnettの多重検定法によりIR64と比べて5%レベルで有意であることを示す。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究A
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 気候変動対応
拠出金 » IRRI-日本共同研究プロジェクト
- 研究期間
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2011年度(2005~2011年度)
- 研究担当者
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小林 伸哉 ( 農研機構 次世代作物開発研究センター )
科研費研究者番号: 70252799藤田 大輔 ( 農研機構 作物研究所 )
科研費研究者番号: 80721274石丸 努 ( 生物資源・利用領域 )
福田 善通 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
- ほか
- 発表論文等
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Fujita et al. (2011) Plant Breeding, 130:526-532.
- 日本語PDF
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2011_03_A4_ja.pdf85.07 KB
- English PDF
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2011_03_A4_en.pdf88.72 KB