インド型水稲品種IR64の遺伝的背景に農業有用形質を導入した染色体断片導入系統群
イネ(Oryza sativa L.)品種IR64を遺伝的背景に、農業上重要な到穂日数や収量関連形質などに変異のある染色体断片導入系統群は、遺伝解析材料や育種素材として活用できる。
背景・ねらい
国際稲研究所(IRRI)では、高品質で、病害虫に強いインド型水稲品種IR64を育成し、広く熱帯の発展途上国で普及させている。また収量性の改善をめざして、熱帯日本型イネを用いた多収系統のNew Plant Type(NPT)品種も育成している。インド型水稲品種IR64のさらなる遺伝的改良を通して、発展途上国における食糧安定生産を実現するため、NPT品種由来の有用遺伝子をIR64の遺伝的背景に導入した染色体断片導入系統を育成し、優れた遺伝解析材料あるいは育種素材を開発する。
成果の内容・特徴
- IR64の遺伝的背景に10種類の遺伝子供与親を用いて育成した染色体断片導入系統(BC3の自殖後代)334系統は、フィリピンの国際稲研究所の圃場での栽培試験で、稈長、穂長、葉身長、葉身幅、一穂籾数、穂数、籾重、到穂日数に変異がある。
- 育成した334系統は、両親間で多型を示す200以上のSSRマーカーの遺伝子型解析により、各系統ごとに供与親からの導入染色体領域が確認できる(表1、図1)。
- 上記のデータに基づき遺伝子型ごとに形質の分散分析を行い、8つの形質に関連する計54の量的形質座位(QTL)が検出される (図1) 。
成果の活用面・留意点
- 育成された系統群は、インド型品種のIR64が遺伝的背景となっていることから、熱帯等の環境条件に適している。
- 各国で普及されている品種IR64が遺伝的背景になっているため、農業上有用な形質が導入された系統は、途上国での食糧安定生産に寄与する育種素材や品種候補系統として活用できる。
- 遺伝子供与親ごとに小規模の戻し交雑自殖系統群となっており、遺伝解析に活用できる。
- 各系統のSSRマーカー情報は、遺伝解析やマーカー選抜に活用できる(詳細なデータは、JIRCAS Working Report No. 66およびWeb上でも公開予定)。
- 温帯(つくば)で栽培した場合、極晩生で未出穂や登熟不良となる系統もある。
- 染色体断片導入系統群の分譲については、国際稲研究所のIRRI日本共同研究プロジェクト(農林水産省拠出金研究)に問い合わせる。
具体的データ
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表1 IR64の染色体断片導入系統群の遺伝子供与親、育成系統数および供試したDNAマーカーのうち両親間で多型を検出した数
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■:各姉妹系統群においてSSRマーカーにより導入染色体断片の検出された領域。
DTH(到穂日数)、CL(稈長)、PL(穂長)、LL(葉身長)、LW(葉身幅)、PN(穂数)、GW(籾重)、SN(籾数)は各形質と関連のあった領域。
- Affiliation
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国際農研 生物資源領域
- 分類
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研究A
- 予算区分
- 運営費交付金〔節水プロ〕 IRRI日本共同研究プロジェクト(農林水産省拠出)
- 研究課題
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節水栽培に適応した育種素材の育成
- 研究期間
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1994~2010年度
- 研究担当者
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小林 伸哉 ( 生物資源領域 )
藤田 大輔 ( 国際稲研究所 )
井辺 時雄 ( 農研機構 九州沖縄農業研究センター )
加藤 浩 ( 農研機構 作物研究所 )
福田 善通 ( 生物資源領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Fujita et al. (2009) Field Crops Res. 114:244-254.
Fujita et al. (2010) JARQ 44:277-290.
JIRCAS Working Report No.66 (2010)
- 日本語PDF
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2010_seikajouhou_A4_ja_Part11.pdf215.75 KB