出穂特性の異なる小麦8品種が持つVrnおよびPpd遺伝子

要約

Vrn遺伝子について、小麦品種「フクワセコムギ」、「ゼンコウジコムギ」、「Schomburgk 」はそれぞれVrn-D1、Vrn-D1、Vrn-A1を持つ。Ppd遺伝子について、「ハルヒカリ」は主働遺伝子を持たず、「農林59号」、「農林67号」、「農林61号」、「ゼンコウジコムギ」、「埼玉27号」、「Schomburgk 」の6品種は1個の同じ主働遺伝子を持ち、「フクワセコムギ」は2個の主働遺伝子を持つ。

背景・ねらい

   小麦の品種育成において出穂期は重要な形質のひとつである。出穂期を決定する重要な遺伝子として、低温要求性に関係するVrn遺伝子(Vernalization-insensitive gene :秋播性を春播性にする遺伝子)と日長反応性に関係するPpd遺伝子(Photoperiod-insensitivegene:長日性を中性にする遺伝子)が知られている。しかし、日本品種について、Vrn遺伝子型は多くの品種で不明であり、また、Ppd遺伝子型は明らかにされていない。そこで、日本品種の「農林59号」(vrn:秋播性)、「農林67号」(vrn)、「農林61号」(Vrn-D1)、「フクワセコムギ」、「ゼンコウジコムギ」、「埼玉27号」(Vrn-A1)、「ハルヒカリ」(Vrn-A1Vrn-B1)、オーストラリア品種の「Schomburgk」のうち未同定の3品種が持つVrn遺伝子と8品種が持つPpd遺伝子を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 既知系統に対する対立性検定の結果、「フクワセコムギ」、「ゼンコウジコムギ」、「Schomburgk 」はそれぞれVrn-D1Vrn-D1Vrn-A1を持つ(表1)。
  2. 緑体春化処理(5°C・8時間日長条件の70日間)後の20°C・24時間日長条件における到穂日数は18~27日で品種間差が小さい。一方、緑体春化処理後の20°C・8時間日長条件における到穂日数は「フクワセコムギ」26日、他6品種34~42日、「ハルヒカリ」80日で品種間差が大きい(図1)。したがって、緑体春化処理後の20°C・8時間日長条件における到穂日数は、低温要求性とは関係なく、日長反応性の大きさの指標となる。
  3. 8品種間の交配組合せにおける日長反応性のF2・B1F1分析の結果、「ハルヒカリ」はPpd主働遺伝子を持たず、「農林59号」、「農林67号」、「農林61号」、「ゼンコウジコムギ」、「埼玉27号」、「Schomburgk」の6品種は1個の同じPpd主働遺伝子を持ち、「フクワセコムギ」は2個のPpd主働遺伝子を持つ(図1・表2)。

成果の活用面・留意点

品種が持つVrnおよびPpd遺伝子に関する情報は品種育成に役立つとともに、分子遺伝学的研究に利用できる。

具体的データ

  1. 表1
  2. 図1
  3. 表2
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
受託研究〔21世紀プロ・ブランドニッポン〕 基盤
研究課題

世代促進の利用による早生化選抜技術の開発

小麦の世代促進における出穂特性の変異固定技術の開発

研究期間

2004年度(2002~2005年度)

研究担当者

谷尾 昌彦 ( 沖縄支所 )

田村 泰章 ( 沖縄支所 )

佐藤 光徳 ( 沖縄支所 )

高木 洋子 ( 沖縄支所 )

松岡 ( 農林水産省農林水産技術会議事務局 )

加藤 鎌司 ( 岡山大学 )

ほか
発表論文等

谷尾昌彦, 田村泰章, 佐藤光徳, 荒木和哉, 西尾善太, 乙部千雅子, 石川直幸, 平将人, 波多野哲也, 松岡誠 (2004): 小麦の出穂早晩性に影響する遺伝的要因の地域間差異。育種学研究, 第6巻別号1, 135

日本語PDF

2004_18_A3_ja.pdf619.84 KB

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