ツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性を国際間で比較するための簡易検定法

関連プロジェクト
越境性害虫
要約
検定に供試する個体の採集法、入手が容易な材料で作成する人工飼料による供試虫の累代飼育法、人工飼料を用いる殺虫剤塗布法から構成される簡易検定法を用いることで、越境性害虫であるツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性を容易に国際間で比較できる。

背景・ねらい

ツマジロクサヨトウ (Spodoptera frugiperda) は、南北アメリカ大陸が原産の害虫であるが、近年、アフリカ及びアジアに侵入し、その分布域を急速に拡大している。本種は、トウモロコシを中心に80種類以上の作物を食害する(図1)。原産地およびアフリカ大陸では、多くの殺虫剤に対する抵抗性の発達が報告されており、安価かつ容易に入手できる特定の殺虫剤が連用されるアジアにおいても、同剤を中心とする殺虫剤に対する抵抗性の発達が懸念される。
ツマジロクサヨトウの成虫は長距離移動能力を持つため、任意の地域で殺虫剤に対する抵抗性を獲得した系統が出現すると、近隣諸国に急速に拡散する可能性が高い。従って、本種の殺虫剤抵抗性系統のまん延を抑制するには、その感受性の変化を同一の方法を用いて広域かつ網羅的にモニタリングし、その結果を速やかに共有することが肝要である。
そこで本研究では、開発途上地域を含む東南アジア等におけるツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性のモニタリングを可能にするため、比較的容易に入手できる材料を用いた簡易な殺虫剤感受性検定法を開発する。また、開発した方法を用いて網羅的な比較を実施できるか検証するため、タイ国内における本種の殺虫剤感受性の変化をモニタリングする。

 

成果の内容・特徴

  1. 本簡易検定法は、供試虫の採集法、比較的入手が容易な材料で作成する人工飼料を用いた大量飼育法、同人工飼料を用いる感受性検定法から構成される(図2)。この方法を用いることで、既存の殺虫剤抵抗性遺伝子の多型を指標とした分子生物学的検定法および局所施用法等の生物検定法と比較し、多くの種類の殺虫剤を対象とした検定を容易に実施できる。
  2. 供試虫は調査地域あたり300個体以上採集する。
  3. 人工飼料は、組成Aを煮沸し、冷却後に組成Bを加え撹拌、最後に組成Cを加えて作成する(表1)。凝固する前に、プラスチックカップに5mlずつ分注する。冷蔵庫で保管し、ツマジロクサヨトウに与える前に室温に戻す。この人工飼料を餌として与えることで、1齢幼虫を蛹まで飼育できる(図3)。
  4. 感受性試験は、採集後3世代以内の3齢幼虫を用いて殺虫剤塗布法により実施する。蒸留水を用いて任意の倍数に段階的に希釈した殺虫剤200ulを5mlの人工飼料に塗布する。乾燥後、3齢幼虫10頭を導入し72時間後の死亡個体数を計数する。得られた結果から、半数致死濃度を計算する。
  5. タイの主要なトウモロコシ産地から採集した個体群を用いて、東南アジア諸国でツマジロクサヨトウ対策として使用されている、もしくは使用が計画されている殺虫剤の感受性を評価すると、複数の殺虫剤で、経時的な殺虫剤感受性の低下が検出されており、開発した手法は国際間等の網羅的な比較に使用できる精度である(表2)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 本研究で開発された手法は、ツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性を国際間で比較し対策をたてるために利用できる。
  2. タイでは複数の殺虫剤に対してツマジロクサヨトウの感受性が低下していることから、早急に代替となる防除手段を確立する必要がある。
  3. ツマジロクサヨトウの幼虫に人工飼料を与えた時の生存率は、3-6齢ではトウモロコシ生葉と同等であるが、1-2齢ではトウモロコシ生葉より低くなるため、同時に多くの殺虫剤を検定する必要がある場合、1-2齢幼虫に対しては生葉を与えて飼育する。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » 越境性害虫

研究期間

2021~2023年度

研究担当者

小堀 陽一 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 50414628
見える化ID: 001789

Thirawut Supangkana ( タイ農業局植物保護研究開発部 )

Sutjaritthammajariyangkun Woravit ( タイ農業局植物保護研究開発部 )

Rukkasikorn Artit ( タイ農業局植物保護研究開発部 )

Punyawattoe Pruetthichat ( タイ農業局植物保護研究開発部 )

Noonart Uraporn ( タイ農業局植物保護研究開発部 )

ほか
発表論文等

Thirawut et al. (2023) CABI Agriculture and Bioscience 4: 19.
https://doi.org/10.1186/s43170-023-00160-8

日本語PDF

2023_B06_ja.pdf617.79 KB

English PDF

2023_B06_en.pdf676.64 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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