未利用バイオマスを活用したバイオガス発生装置の安定利用
農家用の小規模なバイオガス発生装置(BD)からのガスの発生量は、原料となる家畜の排せつ物の供給量の影響を受けるが、ホテイアオイなどの未利用バイオマスを補助的な原料として活用することで、BDの安定的な利用が可能となる。
背景・ねらい
ベトナム・メコンデルタにおいて、クリーン開発メカニズム(CDM)事業の一環として導入を進めているバイオガス発生装置(BD)は、農家用の小規模かつ簡易な装置である(図1)。BDの原料は主に養豚からの排せつ物のため、豚の価格の低迷による養豚の中断、病気または成豚等の売却などにより、豚の飼養頭数が減少した際は、排せつ物の供給量が減少し、ガスの発生量も減少する。ガス不足が長期化すると、BDが使用されなくなるケースが多い。一方で現地には、繁殖力の高いホテイアオイなどの未利用バイオマスが豊富に存在する。これら未利用バイオマスをBDの原料として活用することで、BDを安定的に利用する技術を開発する。
成果の内容・特徴
- BDを導入した農家(435戸)について、バイオガスの使用状況を1年間(2013年6月1日~2014年5月31日)モニタリングした結果、バイオガス使用開始以降、1日以上バイオガスを使用しなかった農家は44戸である。バイオガス未使用の最大の原因は、豚の販売価格の低迷、病気および成豚の売却などによる養豚の中断(55%)である(図2)。
- CDM事業の対象であるカントー市は、メコンデルタの中心部に位置し、メコン川とその支流に接続する水路が複雑に張り巡らされており、そこには、ホテイアオイなどの繁殖力の高い水生植物が豊富に存在する。これらを家畜頭数減少時にBD原料として使用できれば、原料供給が安定化する。
- 農家が使用しているものと同サイズのBDを用い、未利用バイオマス(ボタンウキクサ、ホテイアオイおよび野生イネなどのイネ科植物)を原料として、バイオガスの発生量を確認するための試験を行う。各原料を20~30cmに細断し、同一の乾燥重量(2.7kg/日)で30日間BDへ投入し、60日間のガスの発生量を3反復で計測したところ、対照区である豚のふんを原料とした場合と比較して、ホテイアオイで約7割、ボタンウキクサ、イネ科植物では約9割の体積のガスが発生する(図3)。
- 最も条件の悪い養豚なしの農家を対象に、ボタンウキクサのみをBD原料とする実証試験を1年間行ったところ、バイオガスが調理用燃料として継続的に使用されている。BDの導入前と比較して、薪の消費量は2.4t/年削減され、これによる温室効果ガス(GHG)の排出削減量は1.8tCO2/年と試算される(図4)。
成果の活用面・留意点
- BDを導入した農家において、原料となる家畜の排せつ物の供給が減少した際に本技術を活用することで、BDの持続的な利用が可能となる。
- 未利用バイオマスをBD原料とする場合、対象となる農家が未利用バイオマスを容易かつ安定的に入手可能なことが条件となる。
- 労働時間は、薪の採集に比べ短縮されるが、家畜の排せつ物を原料とする場合に比べ増加するため、未利用バイオマスのBD原料としての利用は、家畜排せつ物が不足する際の補助的な位置付けとすべきである。
具体的データ
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図1 プラスチック製バイオガス発生装置
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図2 バイオガス未使用の理由
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図3 未利用バイオマスを用いたバイオガス発生試験におけるガス発生量
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図4 ボタンウキクサのみを原料とするBDを導入した農家における年間薪消費量およびGHG排出量の変化(1戸の農家における実証試験の結果)
- Affiliation
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国際農研 農村開発領域
- 分類
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技術A
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 研究期間
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2014年度(2011~2015年度)
- 研究担当者
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泉 太郎 ( 農村開発領域 )
松原 英治 ( 農村開発領域 )
- ほか
- 発表論文等
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泉ら (2015) 農業農村工学会誌 83(2): 27-30
Nguyen C. T. et al. (2014) Science and Technology Journal of Agriculture & Rural Development, 2014(14): 27-32(ベトナム語)
- 日本語PDF
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- ポスターPDF
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