国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

家庭用バイオガス発生装置は温室効果ガス排出削減と農家の便益を実現する

要約

途上国の農村部に家畜の排せつ物等を原料とする家庭用バイオガス発生装置を導入することは、温室効果ガスの排出削減と農家の調理用燃料経費の節減、労働時間の短縮など農家の便益を実現する気候変動緩和策である。

背景・ねらい

クリーン開発メカニズム(CDM)により途上国における温室効果ガス(GHG)排出を削減する取り組みは重要であるが、炭素クレジット価格の低迷などにより現状では十分機能していない。緩和策を広く普及させるためには、農家がその利用によりメリットを実感できるものとする必要がある。家畜の排せつ物等を原料としてバイオガスを発生させる家庭用バイオガス発生装置(BD、図1)が、まずMRV(測定・報告・検証)可能な気候変動緩和策となり得るか、更に、農家の便益も実現する気候変動緩和策となり得るかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. ベトナムのメコンデルタにおいて、BDを導入した農家(435戸)のバイオガスの使用状況を1年間(2013年6月1日~2014年5月31日)モニタリングした結果、全体の95.7%の日でバイオガスが使用され、従前の調理用燃料が代替されることで、446 tCO2の排出削減となる。この削減量が国連CDM理事会により公認され、相当する炭素クレジット(CER)が2015年6月19日付けで発行されたことから、BD導入によるGHG排出削減はMRV可能である。
  2. BD導入により、調理用の薪及びLPガスの使用が抑制される(図2)。BD導入による調理用燃料使用量の削減結果から、1戸あたりのGHG排出量と調理用燃料への支出額の変化を求めると、それぞれ、1.87 tCO2/年、95米ドル/年の削減となり(表1)、農家はBDの使用から便益を得られる。
  3. BDを導入した農家に対するアンケート調査の結果によれば、99%の農家がBD導入に満足している。その理由として農家は、燃料経費節減や薪収集に要してきた時間の節約、調理時間の短縮などに加えて、健康改善、環境改善の効果を挙げている(図3)。
  4. 以上から、BDはMRV可能でかつ農家の便益も実現する気候変動緩和策と言える。

成果の活用面・留意点

  1. ベトナム政府の排出削減目標に関する「自主的に決定する約束草案(INDC)」には、バイオガスを含む農業分野からの排出削減が明記されており、INDCの具体化に際して本成果の活用が期待される。
  2. BD導入によるGHG排出削減量及び農家の便益は、農家が従前使用していた調理用燃料の種類及び量により変化する。
  3. BD導入のための初期費用は約180米ドル(材料費:140米ドル、労務費:20米ドル、技術支援に係る経費:20米ドル)、維持管理費は年間20米ドル程度と見込まれ、BDの使用を7年間継続した場合の便益は、農家の調理用燃料への支出額約2年分(200米ドル以上)に相当する。

具体的データ

  1. 図1 標準的なプラスチック製バイオガス発生装置
    図1 標準的なプラスチック製バイオガス発生装置
  2. 図2 BD導入による調理用燃料種別使用農家数の変化
    図2 BD導入による調理用燃料種別使用農家数の変化
    (注1)調査農家戸数:66戸
    (注2)調査時点で各燃料を調理に使用していた農家数
    (注3)導入前にバイオガスを利用していた農家(1戸)は独自にBDを設置した農家
  3. 表1 BD導入による調理用燃料に関する変化 (1戸あたり、66戸の平均値)

    項目
    導入前
    導入後
    変化
    調理用燃料使用量
    人の食事
    1.59
    0.32
    -1.27
    (t/年)
    豚の飼料
    1.50
    0.38
    -1.12
     
    小計
    3.09
    0.70
    -2.39
    LPガス(kg/年)
    27.3
    2.4
    -24.9
    温室効果ガス排出量
    人の食事
    1.20
    0.24
    -0.96
     
    豚の飼料
    1.13
    0.29
    -0.84
    (tCO2/年)
    小計
    2.33
    0.53
    -1.80
     
    LPガス
    0.08
    0.01
    -0.07
     
    2.41
    0.54
    -1.87
    調理用燃料への支出
    薪(購入)
    14
    1
    -13
    薪(収集)
    53
    12
    -41
    (米ドル/年)
    LPガス
    45
    4
    -41
     
    112
    17
    -95
    (注)支出の調査はベトナムの通貨ドンで行い、調査時点(2012から2014年)の為替レートで米ドルに換算した
  4. 図3 BD導入による効果を実感している農家の割合
    図3 BD導入による効果を実感している農家の割合
    (注1)調査農家戸数:257戸
    (注2)経費節減:調理用燃料経費の節減、労働時間:薪の収集・調理時間の短縮、肥料効果:消化液を肥料として利用(作物栽培・養魚)、健康改善:薪による調理の際の煙・煤による健康被害の改善、環境改善:家畜排せつ物に起因する悪臭・水質汚濁の減少
所属

国際農研農村開発領域

分類

行政

国名
  • ベトナム
  • 研究プロジェクト

    開発途上地域農業の温室効果ガス排出抑制とリスク回避技術の開発(気候変動対応)

    プログラム名

    資源・環境管理

    予算区分

    交付金気候変動対応

    研究期間

    2016年度(2011~2020年度)

    研究担当者
  • 太郎 (農村開発領域)
  • 発表論文等

    Taro I et al. (2015) Journal of Sustainable Development, 8(8):147-158 DOI: 10.5539/jsd.v8n8p147

    Taro I et al. (2016) Journal of Sustainable Development, 9(3):224-235 DOI: 10.5539/jsd.v9n3p224

    UNFCCC (2015) Monitoring report ‘Farm household biogas project contributing to rural development in Can Tho City’ (version 02), Reference number 6132 https://cdm.unfccc.int/Projects/DB/JACO1335502236.58

    日本語PDF
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