三期作を通じた間断かんがいは農家の利益向上と温室効果ガス削減に貢献
三期作(通年)を通じた調査は作期による栽培管理、生産費用、収量や販売価格の違いを考慮した評価を可能にする。これらを考慮した評価によると、ベトナム・メコンデルタにおいて、間断かんがい(AWD)三期作実施農家はAWD導入により利益を6%上げながら、温室効果ガス排出量を38%削減できる。農家の利益を向上しつつ、気候変動緩和・適応に貢献するコベネフィットな技術としてアジアモンスーン地域への展開が期待される。
背景・ねらい
ベトナム南部に位置するメコンデルタは、三期作栽培が行われるようになり、コメの作付面積が拡大している。作付面積の拡大は、食料需要に応える有効な手段だが、土壌由来のメタンをはじめとする温室効果ガス(GHG)排出と水需要への対応策が求められている。
水田では、土壌内部が酸素のない嫌気的な環境になるため、嫌気性微生物の働きによりメタンが生成され、大気に放出される。間断かんがい(AWD)は、水田の土壌が乾燥するまでかんがいせず、乾燥後かんがいを繰り返す水管理である(図1)。これにより、土壌に酸素が供給され、従来(常時湛水)に比べ、節水を可能にしながらメタンを削減できる技術としてアジアモンスーン地域で注目されている。
一作(夏秋:早期雨季)のデータによれば、AWD実施農家は収量を維持しつつライフサイクル温室効果ガス(LC-GHG: Life-Cycle Greenhouse gas)を削減できる(令和2年度国際農林水産業研究成果情報A02「間断かんがい技術(AWD)によるライフサイクル温室効果ガス削減効果」)。しかし、農家の利益やGHG排出への影響を包括的に考慮した評価はほとんど行われておらず、AWDを三期作(通年)実施するメリットは明らかにされていない。そこで、本研究では、ベトナム・メコンデルタに位置するアンジャン省の農家調査データを用い、通年のAWD実施による農家利益とLC-GHGへのインパクト評価を行う。
成果の内容・特徴
- ライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)手法を用い、農業資材及び機械の製造から水田の整地、コメの栽培・収穫・稲わら処理までの各段階で発生するGHGの総排出量をLC-GHGとして評価する。農家の利益は、各生産管理で発生する農業資材、農機具、燃料、賃金などを含む生産費と売り上げに関するデータを用いる(図2)。
- 2019~2020年の1年間に計3回調査を実施し、各調査につきAWD実施・未実施農家それぞれ100戸、合計600戸を対象に聞き取り調査を行い分析の基礎データとする。調査時期は、夏秋作(栽培期間4~8月)、秋冬作(後期雨季:7~11月)、冬春作(乾季:11~4月)収穫後である。農家が複数圃場を所有する場合、圃場毎に調査を行う(全圃場数1105)。
- 売上(販売価格×収量)が生産費用の増加を上回るため、AWDを実施した農家の利益は、未実施農家に比べ、三期作を通して6%増益する(図3)。
- AWD実施農家では、三期作を通してLC-GHGが、38%削減可能になる(図4)。
- AWD実施農家は未実施農家に比べ、利益が得られる一方で、LC-GHGの削減が可能になる。
成果の活用面・留意点
- 水田稲作からの土壌由来メタン排出削減が課題となっている中、本研究結果は、三期作を通じたAWD実施効果を裏付ける資料として用いることができる。
- 三期作を通じたAWDの実施は、農家の増益と農業からの環境負荷軽減を両立するコベネフィットな農業システムであり、アジアモンスーン地域における気候変動の有望な緩和策及び適応策として期待される。
- 本研究は、ベトナムアンジャン省での1年間の調査に基づく結果である。調査の継続、及びアジアモンスーン地域の多地点での調査により、通年実施によるメリットを示すことができれば、AWDの更なる普及につながることが期待される。
- LC-GHG算出の際、土壌由来のメタンや一酸化二窒素は、IPCCガイドライン(2019)に示された手法を用いて推定することができるが、圃場データを用いるのが望ましい。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合
- 研究期間
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2019~2022年度
- 研究担当者
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レオン 愛 ( 社会科学領域 )
泉 太郎 ( 農村開発領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Leon and Izumi. (2022) Journal of Cleaner Production 354: 131621.https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2022.131621
- 日本語PDF
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2022_A04_ja.pdf1.97 MB
- English PDF
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2022_A04_en.pdf1.83 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。