タイ肉牛生産過程における温室効果ガス排出の包括的評価

関連プロジェクト
気候変動総合
国名
ベトナム
要約

タイ肉牛飼養過程およびふん尿堆積過程におけるメタン排出はそれぞれ6.87%GEI(総エネルギー摂取量), 0.68%GEI程度であり、堆積ふんへの稲わら混合(重量比5%)は有機物分解を促進し、メタン排出ピーク及びメタン生成古細菌によるメタン代謝を低減するが、総温室効果ガス排出量に与える影響は限定的である。

背景・ねらい

畜産業は主要な温室効果ガス(GHG)排出源の一つであるが、東南アジア諸国における排出量については根拠となるデータが不足している。排出量推定の正確性向上のため、反芻胃由来メタン(CH4)変換係数(Ym値)や個別ふん尿処理区分からの排出係数等の整備等が必要である。また、反芻胃由来CH4及びふん尿処理については、先進国において別々に測定した事例があるものの、これらを連続した過程として包括的に評価した事例は存在しておらず、データの連続性が課題である。一方で、ふん尿処理由来GHGについては、副資材を活用した有機物分解促進によりその削減が期待できることから、東南アジアにおいて賦存量が多い稲わらの活用によるGHG削減効果等について明らかにする必要がある。そこで本課題では、タイ在来品種肉牛4頭を用い、飼養過程からの反芻胃及びふん尿処理由来GHG排出について、排出係数整備の観点から包括的に評価するとともに、現地で容易に利用可能な稲わらを副資材として活用した際のGHG排出及びふん中微生物群集及びその機能に及ぼす影響について併せて明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  1. タイ在来牛4頭について、栄養要求量を満たす水準として体重比乾物摂取量を2%、また現地における標準的な飼料組成としてパンゴラグラス70%, 濃厚飼料30%に設定した飼養試験を2回実施(それぞれ開始時体重313.8±20.4 kg、354.7±21.6 kg)した。ヘッドボックス型チャンバーを用い、6日間のCH4排出について計3回にわたり繰り返し測定する。また、排出されるふんについては、別途ガス排出測定用のチャンバーに総重量が500 kgまで蓄積し、稲わら25 kgを副資材として混合の上、2週間に一度切り返しを行い、12週間にわたりガスクロマトグラフを用いてCH4および 一酸化二窒素(N2O)排出量を測定する。
  2. 乾物摂取量はそれぞれ5.4±0.4 kg/日、5.6±0.4 kg/日、乾物消化率は55.42±1.26%、53.68±3.2%と標準的な水準であり、有機物、粗脂肪等他の飼料成分についても同様となり(データ省略)、現地における標準的な飼養環境下におけるCH4排出量及びYm値は6.87%GEI(総エネルギー摂取量)、ふん堆積過程におけるCH4排出は0.68%GEIである(表1)。
  3. 稲わら混合により顕著な有機物分解促進が起こり、堆積ふんの温度は65.1-66.2℃まで上昇する一方、対照区の最高温度は43.8-47.4℃にとどまる(図1)。ガス排出についてはばらつきが大きく、CH4排出において稲わら混合による排出ピークの減少が認められるものの、排出総量においては有意な効果は認められない(図2A)。N2O排出についても同様に、稲わら混合区において排出が低い傾向があるものの、排出総量において有意な差は認められない(図2B)。
  4. 試験期間中ふん中微生物群集組成および機能、GHG排出との関係について16SrRNA遺伝子アンプリコンシーケンスデータを用いて解析すると、処理区により明確なグループ分けが認められ、特に堆積初期のCH4代謝に大きな低減効果が得られる(図3)。これは、堆積初期のCH4排出量ピークの低減(図2A)と一致する。

 

成果の活用面・留意点

  1. 現地で不足する畜産業由来GHG排出量のベースライン値としてインベントリ等に活用できる。
  2. 稲わらの副資材としての活用はふん中有機物分解を促進し、CH4生成古細菌の活動低減効果があるため、ふん尿処理手法として有効であるが、現地で一般的な小規模農家に導入する場合のGHG排出削減効果は限定的となる可能性に留意が必要である。

 

具体的データ

  1. Figs

     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合

研究期間

2017~2021年度

研究担当者

前田 高輝 ( 生産環境・畜産領域 )

義民 ( 生産環境・畜産領域 )

Angthong Wanna ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

Keaokliang Ornvimol ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

Kamphayae Sukanya ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

昭憲 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 60355089
見える化ID: 000969

鈴木 知之 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 70391175

Kitwetcharoen Haruthairat ( コンケン大学 )

ほか
発表論文等

Angthong et al. (2022) Front. Environ. Sci. 10:872911.
https://doi.org/10.3389/fenvs.2022.872911

日本語PDF

2022_A02_ja.pdf1.2 MB

English PDF

2022_A02_en.pdf853.45 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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