ベトナム肉牛ふん天日乾燥過程における温室効果ガス排出係数
ベトナム南部の肉牛農家は主に天日によりふんを乾燥処理する。その過程における温室効果ガス排出は単位有機物及び初発単位窒素あたりそれぞれCH4: 0.295 ± 0.078 g kg−1 VS、N2O: 0.132 ± 0.136 g N2O-N kg−1 Ninitialであり、当該国当該処理区分における温室効果ガス排出係数として活用できる。天日乾燥処理により、ふん中微生物によるメタン代謝が大きく低減し、メタンは乾燥初期にのみ排出される。
背景・ねらい
家畜排泄物処理過程は主要な温室効果ガス(GHG)排出源の一つである。その排出総量について、先進国では処理区分毎の排出係数が整備されており、IPCCが定めるTier 2以上の排出量推定が可能である。しかし、東南アジア等の開発途上地域においては整備が進んでおらず、IPCCが提供するデフォルト値を使用したTier 1により推定されている。このため、現地の主要な排泄物処理過程を明らかにした上で、その排出係数策定に資するデータの取得が必要である。そこで本研究では、ベトナム南部における肉牛ふんの処理状況について農家調査により明らかにするとともに、主要な処理区分であることが判明した天日乾燥過程におけるGHG排出について測定する。得られたデータに基づき排出係数の推定と、GHG排出に主要な役割を担うふん中微生物群集について詳細に検討を行い、天日乾燥に伴う推移及びGHG排出との関係等について明らかにする。
成果の内容・特徴
- ベトナム南部において家畜飼養頭数が多いベンチェ省20戸の畜産農家を対象に調査を行った結果、その全てにおいてふん尿は裏庭等において天日乾燥された後、回収業者に売却される(図1)。乾燥後の肉牛ふんは中部高原地域のコーヒー・コショウ農家及び沿岸地域のドラゴンフルーツ農家等に売却され、土壌改良資材及び肥料として施用される。
- 現地の気象条件で現地農家の手法を模した7日間の肉牛ふん天日乾燥試験を2度実施したところ、顕著な重量減少及び乾物率上昇が起こり、乾燥は概ね3-4日程度で完了する。(図2A)
- 当該処理区分からのGHG排出についてチャンバー法を用いてメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)排出量を測定したところ、CH4は乾燥初期に検出されるが、N2O排出は殆ど検出されない。(図2B、2C)
- 排出係数に活用可能な初発単位有機物量及び単位窒素量あたりのガス排出量を算出した結果、CH4: 0.295 ± 0.078 g kg−1 VS、N2O: 0.132 ± 0.136 g N2O-N kg−1 Ninitialとなり、IPCCデフォルト値を下回る。
- 天日乾燥によりふん中の微生物群集は大きく影響を受け、その構造が大幅に変化する(図3A、例えばPseudomonadales、Clostridiales)。また、当該微生物群集の機能推定を行うと、乾燥過程初期のメタン生成古細菌の相対的割合が顕著に低下(p<0.001)することにより(図3B)、CH4代謝が大幅に低減するが、これは乾燥過程初期におけるCH4排出量の顕著な減少と合致する(図2B、2C)。また、同機能推定で得られる硝化・脱窒等の窒素変換に関与する機能群については、天日乾燥による影響は限定的(p=0.563)であることから(図3C)、天日乾燥による硝化活性、脱窒活性及びそれに伴うN2O排出への影響も限定的であると考えられ、こちらもガス排出量測定結果と一致する(図2B、2C)。
成果の活用面・留意点
- 天日乾燥はメタン排出に極めて抑制的であることから、GHG排出の観点から優れた手法であるといえる。
- ベトナム国におけるGHG排出推定の根拠となる排出係数の整備に活用できる。
- 乾燥肉牛ふんのコーヒー・コショウ及びドラゴンフルーツ農家への施用時におけるガス排出等について別途検討が必要である。
具体的データ
- 分類
-
行政
- プログラム名
- 予算区分
-
交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合
- 研究期間
-
2017~2021年度
- 研究担当者
-
前田 高輝 ( 生産環境・畜産領域 )
Nguyen Thanh Van ( 南ベトナム畜産研究所 )
Nguyen Thi Hong Trinh ( 南ベトナム畜産研究所 )
La Van Kinh ( 南ベトナム畜産研究所 )
鈴木 知之 ( 農研機構 畜産研究部門 )
ORCID ID0000-0002-5313-7647科研費研究者番号: 70391175Nguyen Duc Dien ( タイグエン大学 )
- ほか
- 発表論文等
-
Nguyen et al. (2022) PLoS ONE 17(3): e0264228.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0264228
- 日本語PDF
-
2022_A01_ja.pdf967.5 KB
- English PDF
-
2022_A01_en.pdf742.67 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。