地中パイプの配置・構造の変更によりビニルトンネル内の水蒸気を効率的に回収できる
地中に埋設したパイプおよびビニルフィルムの内外の温度差を利用し、塩水などの蒸発により生じた水蒸気を結露させて淡水を生産できる。この地中パイプをビニルハウスの直下から外へ移動し、さらに直径100 mmのパイプ1本から直径50 mmのパイプ4本に変更することによりパイプ壁温が低くなり、水蒸気の回収率が約3割増加する。
背景・ねらい
多様な水利用の中で最も多くの水が農業に利用されており(FAO 2020)、世界の淡水*の約70%が灌漑水として取水されている(FAO 2012)。この傾向は乾燥・半乾燥地域において顕著であり、不足する灌漑水を補うために、塩類を含む河川水・地下水や農業排水などが灌漑水として利用されている。既存の脱塩処理施設は、その建設・運転に多額の費用を要する。石川ら(1996)は農業用のビニルトンネル内の高温・湿潤な空気とビニルフィルム外の気温及び周囲の地温で冷却された地中埋設パイプの壁温との温度差で水蒸気を結露させて淡水を回収する「地気熱交換蒸留システム」を開発し、ビニルトンネル内で生じた水蒸気の約30%を回収することに成功している。本研究では、開発途上国の農村地帯に導入可能な農業資材などで作れる簡易な淡水生産技術の開発を目指し、地気熱交換蒸留システムの水蒸気の回収率を向上し得る改良を行う。
* 淡水:塩類濃度が極めて低い水。
成果の内容・特徴
- ビニルトンネル(幅1.2 m、高さ0.6 m、長さ8.0 m)の直下に直径100 mmの塩化ビニル(PVC)パイプ1本(対照:石川モデル)、外側に直径100 mmのPVCパイプ1本(100 mm外配置)、直径50 mmのPVCパイプ4本(50 mm×4外配置)をそれぞれ深さ20 cmに埋設する。パイプの直径・本数の変更により通気断面を確保しつつパイプ内壁面積が2倍に拡大される。ビニルトンネル側面にアルミニウム製のL型フレームを設置し、フレームの下辺縁に密着するようにビニルフィルムを張る。地中パイプとL型フレームの末端には結露回収用のタンクを置く(図1、2)。3棟のビニルトンネルでそれぞれ異なる地中パイプを選択して吸気口に太陽光駆動式のファンを設置し、2日間の集水実験を実施する。その後処理を入れ替えて6回反復する。
- ビニルトンネル内に並べた蒸発槽内の水が日射により蒸発し水蒸気が発生する。ビニルトンネル内で暖められた水蒸気はファンで地中パイプに送風され、地温で冷やされたパイプ壁面付近で冷却されて結露となりパイプ内面に付着する。また、ビニルトンネル内の空気と外気との温度差により、ビニルフィルム内面にも結露が生じる。
- ビニルトンネル内の日平均気温に有意な差は見られない。100 mm外配置および50 mm×4外配置は、トンネル直下の対照よりも地温、パイプ壁温、パイプ内気温が低くなる傾向を示す。特に、50 mm×4外配置のパイプ壁温は、対照よりも3.9℃低い値を示す(表1)。
- 地中パイプとビニルフィルムに生じた結露は、パイプおよびL型フレーム末端のタンクに貯水される。50 mm×4外配置の場合、茨城県つくば市では3月の晴天日に1棟当たりで最大で12.4 L 日-1の淡水を生産できる。
- パイプ結露の蒸発量に対する回収率は対照が4.3%、100 mm外配置が11.3%、50 mm×4外配置が23.3%である(図3オレンジ表示)。また、フィルム結露の蒸発水量に対する回収率は対照が30.3%、100 mm外が27.2%、50 mm×4外配置が22.5%となる(図3青表示)。50 mm×4外配置の地中パイプとフィルムで回収した結露の合計回収率は約46%となり、対照よりも約3割、100 mm外配置よりも約2割多くなる。
成果の活用面・留意点
- 本技術で生産する水は塩類などをほぼ含んでおらず(電気伝導度:0.005 dS m-1)、灌漑水に適している。なお、完全に密閉・滅菌された装置ではないことから、衛生的な観点から飲用には推奨しない。
- 地中パイプおよびフィルム結露回収用のフレームなどは栽培用のビニルハウスにも適用可能であり、作物の蒸発散により生じた水蒸気の回収・再利用も期待できる。
- 本技術は原水の蒸発およびファンの駆動に太陽光が必要であるため、回収水量は季節・天候などによる日長・日射量・気温などの変化の影響を受ける。
具体的データ
- 分類
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研究
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 理事長インセンティブ
- 研究期間
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2022年度
- 研究担当者
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池浦 弘 ( 農村開発領域 )
藤巻 晴行 ( 鳥取大学 )
ORCID ID0000-0003-0175-1773科研費研究者番号: 90323253 - ほか
- 発表論文等
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Ikeura H. and Fujimaki H. (2024) Paddy and Water Environment.https://doi.org/10.1007/s10333-024-01001-8
- 日本語PDF
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2024_A11_ja.pdf1.16 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。