アフリカ産低品位リン鉱⽯は炭酸カリウム添加焼成により肥料化できる
アフリカ産低品位リン鉱石の肥料化においてアルカリを加えた焼成処理が有効であるが、炭酸ナトリウムに代えて炭酸カリウムを添加することで土壌中のナトリウム集積を回避でき、肥料化が可能である。炭酸カリウム添加焼成物の施用効果は、市販の肥料である重過リン酸石灰と同等である。
背景・ねらい
アフリカに多く分布する低品位リン鉱石は、溶解度が低く十分に利用されていない。リン資源の枯渇が叫ばれる中、これらの低品位リン鉱石の利用拡大が期待されている。これまでにブルキナファソ産低品位リン鉱石を対象として焼成による可溶化技術を開発し、平成28年度国際農林水産業研究成果情報A03「アフリカ産低品位リン鉱石は焼成処理で可溶化され高い肥効を示す」を公表した。しかし当該焼成法による可溶化では、副資材として添加する炭酸ナトリウムが土壌に集積することで、作物生育を阻害する可能性が指摘された。そこで当該焼成法の改良法として、炭酸ナトリウムの代替資材として炭酸カリウムを用いて、焼成によるブルキナファソ産低品位リン鉱石の可溶性の向上ならびにその施用効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 焼成処理は、炭酸カリウムを焼成物のK2O含量が20、30、35、40%となるように配合し、900°C、950°C、1,000°C、1,100°Cでそれぞれ焼成する(図1)。
- いずれの温度条件においても、炭酸カリウム添加量の増加に伴い、2%クエン酸可溶性ならびに水溶性が増加し、2%クエン酸可溶性は最大で100%、水溶性は最大で38%を示す(図1)。
- 炭酸カリウム添加焼成物(1,100°C+40%K2Oの条件で得られた焼成物:CBk, 2%クエン酸可溶性は100%、水溶性は28%)の施用効果を検証するため、イネおよびトウモロコシを対象にリン酸欠乏土壌を充填したポット試験で検証した結果、CBkの施用は、1/5,000 aワグネルポットあたり1 g P2O5までの施用水準において、イネでは有意差は無いものの重過リン酸石灰に比べ施用効果が若干劣るが、トウモロコシでは重過リン酸石灰と同程度の施用効果を示す(図2)。
- 焼成時に添加する副資材を炭酸ナトリウムから炭酸カリウムに変更したことにより、土壌中のナトリウム集積が回避され、重過リン酸石灰と同程度のリン酸肥沃度を示す(表1)。
- 低品位リン鉱石の焼成は、ブルキナファソに導入した太陽光発電をエネルギー源とする外熱式Uターンキルンによって実施できる(図3)
成果の活用面・留意点
- リン鉱石の炭酸カリウム添加焼成物は、リン酸だけでなくカリウムとカルシウムの施用効果が期待できる。
- 本焼成法はブルキナファソ産リン鉱石を対象としているが、他のアフリカ産低品位リン鉱石の可溶化にも応用可能であると考えられる。
- 炭酸カリウム添加焼成物はアルカリ性を示すため、酸性土壌の酸度矯正に寄与できる可能性がある。
- 本焼成法で得られる焼成物はクエン酸可溶性リン酸肥料であり、緩効性肥料として利用する。
具体的データ
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図1 炭酸カリウム添加焼成におけるカリウム配合比と焼成温度が焼成物の溶解度およびpHにおよぼす影響
エラーバーは標準誤差 (n =3)、なお未焼成のリン鉱石の2%クエン酸可溶性は31.1%、水溶性は0.2%である。 -
図2 炭酸ナトリウム添加焼成物および炭酸カリウム添加焼成物の施用効果 左)イネ、右)トウモロコシ
エラーバーは95%信頼区間 (n =3)、 CBn: 炭酸ナトリウム添加焼成物、CBk: 炭酸カリウム添加焼成物、TP:重過リン酸石灰 -
図3 焼成処理に利用する外熱式Uターンキルン
(ブルキナファソ、INERA-カンボアンセ支所) -
表1 各種リン酸肥料施用後の土壌化学性の違い
肥料 pH EC 有効態リン 交換性塩基 作物/
土壌水分条件Bray I Bray II Ca Mg K Na mS m-1 mgP kg-1 cmolc kg-1 イネ/ None 5.84 c 108 c 0.08 b 6.39 d 3.31 c 0.70 bc 0.28 b 0.15 c 湛水条件 BP 5.72 c 110 c 0.16 b 107 c 3.18 c 0.64 c 0.24 b 0.16 c CBk 6.45 a 183 a 6.34 a 141 a 10.20 a 0.78 b 6.67 a 0.28 a TP 6.10 b 141 b 4.94 a 117 b 5.42 b 1.09 a 0.47 b 0.24 b トウモロコシ/ None 5.85 a 114 b 0.09 b 6.77 c 3.39 c 0.69 b 0.30 b 0.14 c 畑地条件 BP 5.70 a 123 b 0.17 b 96.1 b 3.56 c 0.69 b 0.33 b 0.15 c CBk 5.97 a 189 a 5.81 a 158 a 9.36 a 0.73 b 6.39 a 0.21 b TP 6.28 a 168 a 5.69 a 107 b 5.90 b 1.11 a 0.49 b 0.24 a
Bray IおよびBray IIはそれぞれ、土壌有効態リン抽出法のうちBray I法およびBray II法により抽出される有効態リン量を示す。異なるアルファベットはTukey HSD法により有意差(p<0.05)があることを示す。
- Affiliation
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国際農研 生産環境・畜産領域
- 分類
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研究
- プログラム名
- 予算区分
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受託 » JST/JICA SATREPS » ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築
- 研究課題
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ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデル構築
- 研究期間
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2019年度(2016~2021年度)
- 研究担当者
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中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 00749921南雲 不二男 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 20399372神田 隆志 ( 農研機構 農業環境変動研究センター )
今井 敏夫 ( 太平洋セメント株式会社 )
Sawadogo Jacques ( ブルキナファソ環境農業研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Nakamura S et al. (2019) Soil Science and Plant Nutrition, 65(3):267-273
- 日本語PDF
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2019_A06_A4_ja.pdf944.38 KB
2019_A06_A3_ja.pdf221.97 KB
- English PDF
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2019_A06_A4_en.pdf289.77 KB
2019_A06_A3_en.pdf283.94 KB
- ポスターPDF
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2019_A06_poster_fin.pdf424.82 KB