根圏土壌を加えたリン鉱石添加堆肥は化学肥料と同等にソルガム収量を増加させる

関連プロジェクト
SATREPSブルキナファソ
要約

サブサハラアフリカの農業生産性を制限している土壌の低いリン肥沃度の改善に向けた新規有機肥料として、ソルガム残渣にリン鉱石と根圏土壌を加えて堆肥化するとリン鉱石土壌添加堆肥が得られる。このリン鉱石土壌添加堆肥は、ソルガム栽培土壌の生物性を高め、既存の化学肥料と同等の増収効果をもたらす。

背景・ねらい

サブサハラアフリカの土壌はリン酸肥沃度が低く、農業生産を制限している。そのため、リン肥料の投入が必要であるが、輸入に依存しているためその利用は限られており、特に近年の価格高騰により一層困難な状況になっている。これまでの試験から、ソルガムの残渣を堆肥化する際に、安価なブルキナファソ産低品位リン鉱石を加えることで堆肥中の有効態リン含量が高まり、さらに根圏土壌を添加することで、堆肥中のリン酸塩可溶化微生物量およびリン酸可溶化酵素量が増加することが明らかになっている(令和2年度国際農林水産業研究成果情報A11「リン鉱石富化堆肥中の有効態リン含量に及ぼす根圏土壌添加の効果」)。
本研究では、こうして製造されるリン鉱石土壌添加堆肥(S-PrCo)の施用効果を、現地圃場におけるソルガム栽培試験を通じて、根圏土壌を添加しない既往のリン鉱石添加堆肥(PrCo)および輸入化学肥料の施用の場合と比較する。さらに、土壌の生物性への影響について評価する。

 

成果の内容・特徴

  1. ソルガムの残渣を100kg、リン鉱石とソルガムの根圏土壌をそれぞれ10kg、発酵促進のための窒素源として尿素を460g用意し、ビニールシート上に5分の1量ずつを交互に積み上げ、その後、含水率を65%程度に調整、2週間ごとに混合しながら180日間発酵させることで、S-PrCoが作成できる(図1)。
  2. ブルキナファソの主要自給作物であるソルガムの作物残渣のみで製造する残渣堆肥(Co)、PrCo、S-PrCo、および化学肥料の施用区を設定してソルガムの栽培試験を実施し、S-PrCoの施肥効果を評価する。
  3. 乾物収量(穀実、茎・葉・穂)は、S-PrCo区ではCo区やPrCo区と比較して有意に大きく、化学肥料区と同等の増収効果を示す(図2)。
  4. S-PrCo区では、化学肥料区と比較して、根圏土壌中の細菌、アーバスキュラー菌根菌、酸性ホスファターゼ(aphA)、およびホスホナターゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(gcd)、リン酸特異的トランスポーター(pstS)など、リン酸塩の可溶化、代謝、吸収に関連する多くの微生物量や酵素量が増加する(図3)。また、PrCoと比較した場合でも、aphAgcd、およびpstSが大幅に増加する。
  5. 以上の結果より、S-PrCoによる大きな増収効果は、施用による土壌中の有効態リン含量の増加だけではなく、土壌の生物性を向上させ栽培期間中のリンの可溶化と吸収が促進されるためと考えられる。

 

成果の活用面・留意点

  1. リン酸塩可溶化微生物が豊富な根圏土壌が添加されたS-PrCoは、サブサハラアフリカのリン欠乏土壌において、土壌の生物性を改善し作物生産を増加させる。
  2. S-PrCoの施用は、土壌pHの矯正効果などの土壌化学性の向上効果も認められる。
  3. 本研究の成果は、農家にとって、化学肥料価格の上昇と土壌劣化に対する新たな選択肢となることが期待される。
  4. 本研究ではブルキナファソ産の低品位リン鉱石を使用し、ブルキナファソにおいて検証されたものであり、他地域における施用効果については留意が必要である。

 

具体的データ

  1.  

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS

研究期間

2017~2022年度

研究担当者

Sarr Papa Saliou ( 生産環境・畜産領域 )

中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 00749921

岩崎 真也 ( 農村開発領域 )

Zongo Armel Nongma ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

Compaore Emmanuel ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

ほか
発表論文等

Sagnon et al. (2022) Scientific Reports 12: 13945.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-18318-1

Sarr et al. (2020) Frontiers in Environmental Science
https://doi.org/10.3389/fenvs.2020.559195

日本語PDF

2022_B11_ja.pdf734.44 KB

English PDF

2022_B11_en.pdf579.33 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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