リン鉱石富化堆肥中の有効態リン含量に及ぼす根圏土壌添加の効果

要約

ソルガム残渣にブルキナファソ産リン鉱石を加えて堆肥化する際に、根圏土壌を添加すると堆肥中のリン酸塩可溶化微生物(特にリン酸可溶化糸状菌)とリン酸可溶化酵素(特にアルカリホスファターゼ)が、土壌を添加しない場合に比べて多くなる。完熟堆肥中の有効態リン含量は、根圏土壌の添加により高くなる傾向が見られる。

背景・ねらい

土壌中の有効態リンの不足は、サハラ以南のアフリカの農業生産を制限している。リンの欠乏を補うため、現地産のリン鉱石の利用が進められているが、直接施用においては作物にとって利用可能なリンの供給は限定的である。そこで、生物学的処理によって有効態リン含量を高めたリン鉱石富化堆肥の利用が検討されている。堆肥化過程におけるリンの可溶化を促進するために、しばしば微生物資材が利用されるが、アフリカの多くの農家は市販の微生物資材を入手することは困難である。そこで、微生物供給源として、農家が容易に利用可能な根圏土壌を添加し、堆肥中の微生物叢の推移を明らかにするとともに、そのリン酸可溶化への効果を評価する。

成果の内容・特徴

  1. ソルガム残渣を用いて3種類の堆肥を製造する(図1)。 何も加えず製造する堆肥に対し、2種類は重量比で10%のブルキナファソ産リン鉱石を添加するリン鉱石富化堆肥であり、そのうちの1種類では、さらに重量比で10%の根圏土壌を添加する。全ての処理で尿素を添加し、C / N比を25:1に調整して堆肥化を開始し、定期的な散水により含水率を60%に維持する。堆肥化は180日で終了し完熟する。
  2. 完熟時(180日目)において、土壌を添加したリン鉱石富化堆肥中のリン酸塩可溶化細菌(PSB)と糸状菌(PSF)を合わせた微生物量は、添加しない堆肥に比べて有意に多い(図2A)。また、リン酸可溶化酵素を生産する菌数が、根圏土壌を添加したリン鉱石富化堆肥において著しく多い(図2B)。そのうち、アルカリホスファターゼ生産菌(phoD)の数が、酸性ホスファターゼ生産菌やホスホナターゼ生産菌の数より多い(データ示さず)。
  3. 堆肥中の有効態リン含量は、PSFおよびphoDと高い相関を有する。一方、リン酸可溶化細菌数(PSB)との相関は低い。
  4. 堆肥化を開始して60日目まで、2種類のリン鉱石富化堆肥中の、有効態リン含量(炭酸水素ナトリウム抽出の無機態リンと有機態リン、ならびに水抽出の無機態リンと有機態リンの総量)は同等である。しかし、180日目には、根圏土壌を添加した堆肥の有効態リン含量が、添加しない場合に比べ、有意差はないが高い傾向が見られる(図4)。この結果は、堆肥化過程でのリン可溶化を促進するための微生物コンソーシアム源として根圏土壌が有望であることを示す。

成果の活用面・留意点

  1. 根圏土壌を添加したリン鉱石富化堆肥は、ソルガム栽培試験で化学肥料(NPK)と同等な収量を示すことを確認済みである。

具体的データ

  1. 図1 堆肥化試験の様子
    図1 堆肥化試験の様子

     

  2. 図2 堆肥化中のリン酸塩可溶化微生物量とリン酸可溶化酵素量の推移
    図2 堆肥化中のリン酸塩可溶化微生物量とリン酸可溶化酵素量の推移

    (A)リン酸塩可溶化微生物=リン酸塩可溶化糸状菌+リン酸塩可溶化細菌、(B)リン酸可溶化酵素生産菌=アルカリホスファターゼ生産菌+酸性ホスファターゼ生産菌+ホスホナターゼ生産菌。各サンプリング期間で異なるアルファベットは一元配置の分散分析によりp <0.05で有意差があることを示す。 

     

  3. 図3 堆肥化中の有効態リン含量と遺伝子量の関係
    図3 堆肥化中の有効態リン含量と遺伝子量の関係

    PSF: リン酸塩可溶化糸状菌、phoD: アルカリホスファターゼ生産菌、PSB: リン酸塩可溶化細菌。サンプリングは堆肥化開始後45日目、60日目及び180日目に行った。示されたデータは、各期間、各種類の堆肥における平均値を示す。

     

  4. 図4 堆肥化中の有効態リン画分の推移
    図4 堆肥化中の有効態リン画分の推移

    NaHCO3_Po: 炭酸水素ナトリウム抽出有機態リン、NaHCO3_Pi: 炭酸水素ナトリウム抽出無機態リン、H2O_Po: 水抽出有機態リン、H2O_Pi: 水抽出無機態リン。各期間で異なるアルファベットは一元配置の分散分析によりp <0.05で有意差があることを示す。 

Affiliation

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

研究

プログラム名

資源・環境管理

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS » ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築

研究課題

ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデル構築

研究期間

2020年度(2017~2021年度)

研究担当者

Sarr Papa Saliou ( 生産環境・畜産領域 )

中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 00749921

福田 モンラウィー ( 生産環境・畜産領域 )

Tibiri Ezechiel Bionimian ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

Zongo Armel Nongma ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

Compaore Emmanuel ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

ほか
発表論文等

Sarr PS et al. (2020) Frontiers in Environmental Science
https://doi.org/10.3389/fenvs.2020.559195

日本語PDF

2020_A11_A4_ja.pdf612.37 KB

2020_A11_A3_ja.pdf611.84 KB

English PDF

2020_A11_A4_en.pdf564.05 KB

2020_A11_A3_en.pdf565.27 KB

ポスターPDF

2020_A11_poster.pdf429.39 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

関連する研究成果情報