主要普及成果

含水比に基づくリン施肥診断に有効な水田土壌のリン吸着能の簡易推定法

関連プロジェクト
SATREPSマダガスカル
要約
リン肥料の施肥効率にかかわる水田土壌のリン吸着能は、密閉容器内で飽和食塩水(飽和塩化ナトリウム水溶液)とともに1週間静置した土壌の含水比によって高い精度と再現性で推定できる。危険な試薬や高価な機器を要する化学分析を必要としないため、分析環境が十分に整わないサブサハラアフリカなどにおいても、リン肥料を優先的に施用する圃場を選別するために利用できる。

背景・ねらい

土壌はリンを吸着する性質(リン吸着能)をもち、リン吸着能が高い場合には、リン肥料の施用効果が得られにくい。特に、土壌中のリン含量が低く、農家の肥料投入量も少ないサブサハラアフリカの農地では、限られたリン肥料を効果的に施用して作物増収に繋げることが重要であるが、土壌のリン吸着能は近接する圃場間でも大きく変動しうるため、その把握が不可欠である(令和3年度国際農林水産業研究成果情報B09「リン欠乏水田でのリン施肥による水稲増収量は土壌リン吸着能から推定できる」)。しかし、一般的な土壌のリン吸着能の分析*には、危険な試薬や高価な機器を要するため、分析環境の整備が不十分なサブサハラアフリカの研究機関等で広く実施することは難しい。国際農研では、主に中性~酸性土壌において、土壌のリン吸着能を規定する活性アルミニウム含量と風乾させた土壌の含水比との間に相関があることを見出したが、風乾時の湿度の変化により含水比が安定しないことが課題であった。本研究では、土壌の含水比を調整するための調湿材として飽和食塩水を活用することにより、高い精度と再現性で、土壌のリン吸着能を平易に推定できる手法を開発する。

*土壌のリン吸着能は、土壌とリン溶液(1,000 ppm P)を土液比1:5で24時間振とうした後、土壌に吸着したリン量を危険性の高い硝酸や毒性があるモリブデンを含む試薬によって発色させて分光光度計によって定量し、もとのリン溶液中のリン量に対する土壌に吸着したリン量の割合として算出する。

成果の内容・特徴

  1. 貧栄養な酸性土壌や肥沃度の高い火山灰性土壌など幅広い性質を含むマダガスカルの水田表層土壌306点について、土壌の含水比によって、10.1%から96.1%の大きな変異をもつ土壌のリン吸着能を高い精度で推定できる(図1)。
  2. 土壌の含水比は、次のように算出する。まず、デシケーターなどの密閉容器内において、風乾細土(< 2 mm)を飽和食塩水とともに室温で一週間静置した後の重量を測定する。次いで、絶乾(105℃で24時間乾燥)した後の重量も測定し、これらの重量の差を、絶乾後の重量で割り、土壌の含水比を算出する(図2)。
  3. 土壌を静置するための密閉容器内に調湿剤として飽和食塩水(水100 gに対して塩化ナトリウムを36 g以上溶かしたもの)を入れることで、静置前の乾燥程度の違いや密閉容器外の相対湿度に関わらず、高い再現性で土壌の含水比を計測できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. 農業技術普及員などが、化学分析を経ずに、施肥効果が得られやすい低いリン吸着能を持つ圃場を選別し、優先的にリン肥料を施用するなど、施肥設計に利用できる。
  2. 本成果は、リン吸着能が高い火山灰土壌や貧栄養な酸性土壌など、熱帯・亜熱帯地域に分布する一般的な水田土壌に対して適用可能である。ただし、土壌のpHが高く、交換性陽イオン含量の高いアルカリ性土壌では誤差が大きくなることが懸念されるため、その適用可能性については追加の検証が必要である。

具体的データ

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS

研究期間

2017~2022年度

研究担当者

西垣 智弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 80795013

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

Rakotonindrina Hobimiarantsoa ( アンタナナリボ大学放射線研究所 )

Andriamananjara Andry ( アンタナナリボ大学放射線研究所 )

ほか
発表論文等

Nishigaki et al. (2023) Soil Science and Plant Nutrition 69: 337–345.
https://doi.org/10.1080/00380768.2023.2245420

日本語PDF

2023_B09_ja.pdf910.18 KB

2023_B09_en.pdf538.48 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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