国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

⽔稲の葉⾊に基づく施肥設計はメタン発酵消化液の肥料利⽤でも有効である

要約

ベトナムのメコンデルタにおける水稲栽培において、バイオガスダイジェスターのメタン発酵消化液を肥料利用する際に、安価な葉色板で測定・数値化できる葉色の変化から施用時期を決定することで、慣行レベルの子実収量を達成できる。

背景・ねらい

ベトナムでは、家畜糞を原料とする小規模バイオガス生産とその家庭内利用が普及している。しかし、窒素等の植物栄養成分を多く含む廃液(メタン発酵消化液)が未処理のまま水系へ排出され、水質汚染等の環境問題を引き起こしている。そこで、消化液を現地の主要作物である水稲の肥料として利用することを提案する。その際の問題点として、農家が消化液中の窒素濃度を正確に把握できないために、適切な施用量や施用時期の決定が難しいことが挙げられる。施用量は試験紙を用いた窒素濃度の簡易測定等によって大まかに推定できるが、施用時期にはこの施用量の過不足を調整することが求められる。そこで、水稲の窒素要求の観点から、国際稲研究所(IRRI)が提供する安価な葉色板(LCC、図1)を用いて、簡易に数値化できる葉色の変化から消化液の施用時期を決定する手法の有効性を、2つの異なる作期のコンテナ水稲栽培試験(品種:OM5451)から検証する。

成果の内容・特徴

  1. LCC値がある閾値以下に低下する度に一定窒素量の牛糞由来の消化液を施用すると、設定する閾値が高いほど、葉色を濃く保つために、施用回数および総施用量が増加する(表1、図2)。
  2. LCC値と葉緑素量の指標であるSPAD値は、作期に関わらず同様の値や変動幅となり、両者の関係は1本の直線で表せる(図3)。このことは、消化液の肥料利用においても、化学肥料の場合と同様に、葉色指標を求める際に高価なSPAD計を使わずとも安価なLCCで代用可能であることを示唆する。
  3. 籾収量と稲わら重量は、設定するLCC閾値が高いほど増加するため、LCC値に基づき消化液の施用時期を決定する手法は有効である。播種後21~81日目の平均LCC値と籾収量(水分14%補正)との間には、異なる作期それぞれで正の直線関係がみられる(図4)。現地カントー市での半透明屋根の網室でのコンテナ水稲栽培における、籾収量の観点から見たLCC最適閾値は3.75である。

成果の活用面・留意点

  1. LCCを用いた葉色測定に基づき消化液の施用時期を決定する手法を用いることで、化学肥料による慣行レベルと同等の子実収量を達成可能である。
  2. 窒素を基準として消化液の施用量を決定する場合、消化液由来のリン酸やカリの施肥量は慣行の化学肥料の場合に比べて過不足になる可能性がある。
  3. 籾収量の観点から見たLCC最適閾値は、品種や栽培環境によって異なることが予想されるため、それぞれ決定する必要がある。
  4. 化学肥料の場合に比べて消化液利用には労力やコストがかかるため、環境問題の解決という利用目的に鑑みて、政策的な支援等が必要である。

具体的データ

  1. 表1 8つの処理区における窒素施肥の方法と2回の実験での施用回数および総施用量(kg N ha-1)

    処理区 施用方法 実験1(主に乾季) 実験2(主に雨季)
    無窒素 窒素のみ無施用 0 0
    消化液固定 慣行の施用時期に消化液を3回分施 150 (30-50-70) 150 (30-50-70)
    消化液2.75 LCC値が2.75以下になる度に消化液で60 kg N ha-1 90 (30-60) 90 (30-60)
    消化液3.00 LCC値が3.00以下になる度に消化液で60 kg N ha-1 90 (30-60) 90 (30-60)
    消化液3.25 LCC値が3.25以下になる度に消化液で60 kg N ha-1 90 (30-60) 90 (30-60)
    消化液3.50 LCC値が3.50以下になる度に消化液で60 kg N ha-1 150 (30-60-60) 150 (30-60-60)
    消化液3.75 LCC値が3.75以下になる度に消化液で60 kg N ha-1 150 (30-60-60) 210 (30-60-60-60)
    尿素3.25 LCC値が3.25以下になる度に尿素で60 kg N ha-1 150 (30-60-60) 90 (30-60)

    無窒素区以外の1回目の窒素施肥は、播種後10~11日目に30 kg N ha-1で実施。
    リン酸(すべての処理区)およびカリ(無窒素区と尿素3.25区のみ)は、慣行の施用時期に化成肥料で施用。

  2. 図1 LCC値の測定の様子
    図1 LCC値の測定の様子
    (写真提供:Ariel Javellana氏、IRRI)

  3. 図2 実験2におけるLCC値の推移の例
    図2 実験2におけるLCC値の推移の例
    矢印は施用時期を示す。

  4. 図3 LCC値とSPAD値の関係
    図3 LCC値とSPAD値の関係

  5. 図4 各実験における平均LCC値と籾収量の関係
    図4 各実験における平均LCC値と籾収量の関係

所属

国際農研生産環境・畜産領域

分類

研究

国名
  • ベトナム
  • 研究プロジェクト

    開発途上地域農業の温室効果ガス排出抑制とリスク回避技術の開発(気候変動対応)

    プログラム名

    資源・環境管理

    予算区分

    交付金気候変動対応

    研究期間

    2019年度(2016~2020年度)

    研究担当者
  • 南川 和則 (生産環境・畜産領域)
  • 宝川 靖和 (農研機構 農業環境変動研究センター)
  • Huynh Cong Khanh (カントー大学)
  • Tran Sy Nam (カントー大学)
  • Nguyen Huu Chiem (カントー大学)
  • 発表論文等

    Minamikawa K et al. (2020) Soil Science and Plant Nutrition, 66(1):225-234 https://doi.org/10.1080/00380768.2019.1665970

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