深層学習で熱帯の多様な生態系における土壌のリン供給能を推定するモデル

関連プロジェクト
SATREPSマダガスカル
要約
土壌の分光データを使用した深層学習により、農耕地および自然植生を含む熱帯の多様な生態系における土壌のリン供給能を迅速かつ高精度に推定できる汎用性の高いモデルを開発できる。

背景・ねらい

熱帯地域では土壌のリン供給能が低いため、持続的な作物生産や土地利用を実現するためには、土壌がもつリン供給能を精度よく把握し、適切な養分管理を施す必要がある。これまでに、マダガスカル中央高地のイネ作付け圃場において、イネへのリン供給能の指標となる土壌の酸性シュウ酸塩抽出リン(Pox)含量を分光スペクトルから迅速に診断する手法を開発した(令和元年度国際農林水産業研究成果情報B01「イネ生育に対する土壌のリン供給能は室内分光スペクトルから迅速に推定できる」)。しかし、部分的最小二乗回帰(PLS回帰)に基づく本手法は、学習データに使用した分光スペクトルの波長特性に強く依存するため、土地利用条件(水田、畑、森林など)や気象条件が異なる土壌では、単一モデルの構築は難しかった。一方で、波長特性を機械が自動で判別する深層学習では、土地利用等に依存しない包括的なモデルの開発が可能である。深層学習には大量の学習データが必要になるが、従来のPLS回帰よりも高い推定精度が期待できる。本研究では、分光スペクトルデータの深層学習により、熱帯の多様な生態系にある土壌を対象とした土壌Pox推定の単一モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  1. 強風化土壌フェラルソル、未熟土壌キャンビソル、鉄集積土壌プリンソソルなどが主に分布するマダガスカルの東部沿岸から中央高地(標高110–1,667 m)の水田、畑、森林、休閑地、裸地の表層0–15 cm深から採取した土壌試料(n = 318)のPox含量と分光スペクトルのデータセットを深層学習に用いる。分光スペクトルは携帯型分光放射計(FieldSpec, ASD Inc.)を用いて、2 mm篩通過風乾砕土を対象に、可視・近赤外領域(400–2400 nm)を暗室内で測定する。
  2. 深層学習のモデルは、一次元情報の分光スペクトルに対応した一次元畳み込みニューラルネットワーク(1D-CNN)を用いて土壌Pox含量との関係を学習させる。開発したモデルに分光スペクトルデータを入力することで、化学分析をせずに土壌Poxの推定が可能になる。
  3. 1D-CNNモデルは、対象地域にみられる多様な生態系の土壌Pox推定にも適用可能であり、既存のPLSモデル(R2 = 0.792)よりも高い精度(R2 = 0.878)で迅速に推定できる(図1)。
  4. 1D-CNNモデルの感度分析の結果、PLS回帰係数と同様に土壌中の鉄酸化物や水分含量などの関連波長(432、590、1433 nm)の感度が高いことから、これらの波長が多様な生態系における土壌Poxの推定に強く関連している(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. 土壌サンプルの化学分析を必要とせず、室内分光計測のみで土壌Pox含量を安全かつ迅速に推定できるため、圃場の施肥設計に利用できる。
  2. モデルの開発に使用したデータセットは、熱帯に広く見られる土壌型や標高条件を網羅しており、マダガスカル以外の熱帯地域にも応用できる。

具体的データ

  1. 図1 土壌の酸性シュウ酸塩抽出リン(Pox)含量の実測値と予測値
    x軸とy軸は、ログスケールで表示。RMSE:二乗平均平方根誤差。

     

  2. 図2 (a)部分的最小二乗回帰(PLS)モデルの回帰係数と
    (b)一次元畳み込みニューラルネットワーク(1D-CNN)モデルの感度

    赤線と数値:土壌供給能Poxの推定における重要度と波長。
    Fe oxidesが酸化鉄の吸収波長。OHは水分含量の吸収波長。

     

    図はKawamura et al. (2021) より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS

研究期間

2017~2022年度

ほか
発表論文等

Kawamura et al. (2021) Remote Sensing 13: 1519
https://doi.org/10.3390/rs13081519

日本語PDF

2021_B10_ja.pdf421.92 KB

English PDF

2021_B10_en.pdf233.62 KB

ポスターPDF

2021_B10_poster.pdf317.52 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。