乾燥サバンナのマメ科作物ではリン鉱石直接施用により化学リン肥料の代替が可能
西アフリカの乾燥サバンナに広く分布する低肥沃土壌では、安価なリン鉱石粉はササゲ、ラッカセイ、ダイズに対して化学リン肥料と同等の効果があり、代替品として利用できる。特に、ダイズは最も高い施用効果が得られる。また、土壌型プリンソソルでは土壌型リキシソルよりも10%程度増収効果が高い。
背景・ねらい
半乾燥熱帯地域の風化土壌ではリン欠乏が食料生産を妨げ、小規模農家の慢性的な貧困を引き起こしている。しかし、化学肥料は多くの発展途上国の農家にとって高価なため手が届かず、近年の肥料価格高騰が状況をさらに悪化させている。
リン鉱石の中でリン酸含量が低いものや、不純物を多く含み化学的反応性の低いものは低品位に分類され、その多くは利用されていない。粉砕された低品位リン鉱石(以下、リン鉱石:図1)は、化学的なリン肥料に代わる安価な選択肢である。これまでに、水稲ではリン鉱石施用の有効性が確認されている(平成25年度国際農林水産業研究成果情報B03「ブルキナファソ産リン鉱石は水田への直接施用において高い肥効を示す」)が、乾燥条件となる畑地での効果は低いと考えられていたため、リン鉱石施用の効果に対する作物種間差や土壌型の影響に関する知見は少ない。
マメ科作物は共生的窒素固定による土壌の酸性化や有機酸の分泌能力を有することから、リン鉱石に含まれる難溶性リンを利用しやすいと考えられる。そこで、本研究では、スーダンサバンナで優占する2種類の土壌型(リキシソル*、プリンソソル**)において、現地で主要な5種のマメ科作物(ササゲ、ラッカセイ、バンバラマメ、リョクトウ、ダイズ)を栽培し、リン鉱石の直接施用に適した作物を明らかにする。
*リキシソル:相対的に肥沃で保水性が高い一方、降雨直後には酸素不足による過湿害を受けやすい。
**プリンソソル:肥沃度や保水性がリキシソルよりも低く、乾燥ストレスを受けやすい。
成果の内容・特徴
- 西アフリカ乾燥サバンナの平均的な降雨条件において、ササゲ、ラッカセイ、ダイズではブルキナファソ産低品位リン鉱石の施用により化学リン肥料と同等の効果が得られる(図2)。ササゲとラッカセイはリン鉱石施用条件下における絶対収量が他のマメ科作物よりも高い。ダイズは絶対収量が低いものの、施用による増収率が最も高い。
- リキシソル土壌は相対的に養分に富むため、プリンソソル土壌より実収量が高いが、高い保水力に起因する土壌過湿害により施肥効果が低い。このため、リン鉱石施用による収量増加率はリキシソル土壌よりもプリンソソル土壌で高い(図2)。
成果の活用面・留意点
- 現地の主要な農業形態である畑作において、安価な低品位リン鉱石による増収効果が明らかになったことで、半乾燥地の低肥沃土壌における作物生産改善にむけたリン鉱石の利用促進に貢献する。
- リン鉱石の可溶性は産地によって異なるため、可溶性の高いリン鉱石を用いる場合はより高い効果が期待できる。
- 窒素施肥を行わずリン鉱石のみ施用する場合、リンよりも窒素制限が相対的に強まるため、増収効果が低下する可能性がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ畑作システム
受託 » JST/JICA SATREPS » ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築
- 研究期間
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2021~2024年度、2019~2022年度
- 研究担当者
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井関 洸太朗 ( 生物資源・利用領域 )
伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-5460-8570科研費研究者番号: 70582021中村 智史 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-0952-5618科研費研究者番号: 00749921Sidibe Hamadou ( ブルキナファソ環境農業研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Iseki et al. (2024) Plant Production Science 27(4): 272-282.https://doi.org/10.1080/1343943X.2024.2400084
- 日本語PDF
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2024_B08_ja.pdf773.69 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。