適切なリンの肥培管理により黒米の生産性と品質を両立できる
背景・ねらい
東南アジア地域では、古くから薬として黒米を摂取する習慣がある。黒米の種皮や果皮にはアントシアニンなどの抗酸化力がある二次代謝産物が含まれ、肝機能の回復や認知症予防などの薬理効果が報告されている。
黒米食の文化があるラオス等の熱帯地域の土壌は、作物の重要な栄養素であるリンの供給力が低いため、生産性向上のためにはリン肥料の施肥が不可欠である。しかし、近年の肥料の高騰化や稲作の省力化に対応するために、適切なリン施肥量を検討する必要がある。また、リン供給によるフラボノイド類の蓄積効果を検証した例は少ないため、リン施肥がフラボノイド類の蓄積に及ぼす影響を明らかにする必要もある。
近年、健康志向の高まりにともない、黒米の機能性が注目されており、付加価値の高い黒米を安定供給するためには、抗酸化力のあるフラボノイド類*を高蓄積した黒米の栽培方法を検討する必要がある。本研究ではリン欠乏土壌を用いてポット試験栽培を行い、リン施肥による黒米の収量と抗酸化能の指標とされるフラボノイド類量を解析して、黒米の生産性と品質を両立させるための適切なリンの肥培管理を検討する。
*フラボノイド類:植物の二次代謝産物でアントシアニン等が含まれる。
成果の内容・特徴
- リン供給力が限られる火山灰土壌を用いた黒米のポット試験栽培では、リンの施肥で収量は増加する(図1)。リン施肥量が250㎎ P2O5 ポットー1を超えると、増収効果は認められないため、250 mg P2O5 ポット-1を超えるリン施肥は収量性向上において過剰である。
- リンの施肥で、抗酸化能の指標とされるフラボノイド類量は減少する。収量が頭打ちとなるリン施肥量(250㎎ P2O5 ポットー1)を超えると、フラボノイド類量はさらに減少する(図2)。そのため、250 mg P2O5 ポット-1を超えるリン施肥はフラボノイド蓄積において過剰である。
- 黒米の市場価値において重要な外観品質である玄米の表面色は、リン施肥で明度が上昇して、黒色が薄くなる(図3)。収量が頭打ちとなるリン施肥量(250㎎ P2O5 ポットー1)を超えると、黒色はさらに薄くなるため、250 mg P2O5 ポット-1を超えるリン施肥は外観形質において過剰である。
- 以上の結果から、リン欠乏土壌におけるリン施肥は黒米の収量を改善するが、収量向上に寄与しない過剰なリン施肥は、フラボノイド類と外観品質を低下させるため、高付加価値の黒米を生産するためには、適切なリンの肥培管理が重要である。
成果の活用面・留意点
- 抗酸化力等の機能性が注目されている黒米栽培において、黒米の生産性と機能性及び外観品質を両立させる有用な知見として活用できる。
- 最適なリン施肥量は土壌によって異なるため、栽培地域の土壌に応じた施肥指針の設定が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » 新需要創造
- 科研費
- 研究期間
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2021~2023年度
- 研究担当者
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アウンゾーウー ( 生産環境・畜産領域 )
浅井 英利 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 30599064髙井 俊之 ( 生産環境・畜産領域 )
田中 ファン ( 生産環境・畜産領域 )
丸井 淳一朗 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001765中原 和彦 ( 生物資源・利用領域 )
斎藤 大樹 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
川村 健介 ( 社会科学領域 )
Win Khin Thuzar ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )
ORCID ID0000-0002-4834-078X - ほか
- 発表論文等
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Oo et al. (2023) Front. in Sustain. Food Syst. 7:1200453.https://doi.org/10.3389/fsufs.2023.1200453
- 日本語PDF
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2023_B05_ja.pdf387.18 KB
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2023_B05_en.pdf206.39 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。