簡易な土壌診断情報の提供がマダガスカルの零細農家の水稲増収と所得増に貢献

関連プロジェクト
アフリカ稲作システム
要約

土壌中のシュウ酸塩抽出リン含量を用いて窒素施肥効果を診断し、効果が「高い」か「低い」かの簡易な情報をマダガスカルの零細稲作農家に提供する。効果が「高い」と判定された水田では、情報のない水田と比較し窒素施肥量が76%、収量が24%有意に増加する。また、診断情報を受けた農家では、診断情報のない農家と比較し、所得が24%有意に増加する。

背景・ねらい

 農家の肥料購買力が低く、かつ、土壌肥沃度の空間変動が大きいサブサハラアフリカでは、施肥応答の高い圃場に優先的に肥料を与えることで、作物の生産性と農業所得の改善が期待できる。しかし、先行研究の多くは、多数の土壌分析値を用いて施肥基準を設定しており、その複雑性や土壌診断費用が高額になることから、土壌診断情報の提供は必ずしも幅広い利用に至っていない。また、土壌診断情報の提供が農家の施肥行動や農業所得に及ぼす影響を社会実験的に実証した研究例は限られる。
 本研究では、サブサハラアフリカの中でも、肥料利用量が少なく、かつ、土壌のリン欠乏が主な生産制限要因となっているマダガスカル中央高地を対象に、社会実験を行い、土壌のリン特性値のみを用いた簡易な土壌診断情報の提供が、農家の施肥行動、生産性および所得に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 作為抽出した10集落70世帯が所有する主要な水田土壌のシュウ酸塩抽出リン含量(Pox)を分析し、窒素施肥効果が「高い」、もしくは「低い」圃場の2つ(二値)に分類する。そのうえで、無作為に選定した35世帯(介入群)のみに、得られた二値情報を作付時期より前に提供する(図1)。
  2. 介入群と対照群では、所得、稲作面積、水稲収量、水稲への化学肥料投入量、窒素施肥効果が「高い」と診断される圃場の割合など、介入前の世帯属性に有意差はない(表1)。
  3. 圃場間比較では、窒素施肥効果が「高い」という診断情報が提供された介入群の圃場では、診断情報がない対照群の圃場と比較して窒素施肥量が34.1 kg ha-1 (76%)、水稲収量が1.1 t ha-1 (24%)、それぞれ有意に増加する。一方で、「低い」という診断情報が提供された圃場では、窒素施肥量、収量ともに対照群の圃場との有意差はない(図2)。
  4. 世帯間比較では、情報提供を受けた介入群では、対照群に比べて、世帯当たりの稲作収量が0.6 t ha-1 (16%)、所得が434千MGA* ha-1 (24%) 有意に増加する。世帯当たりの稲作の窒素施肥量に有意差はない(図3)。

* MGA:マダガスカルの通貨単位で1MGA=0.033923円(2025年1月の為替レート)

成果の活用面・留意点

  1. 農家の肥料購買力が低く、かつ、土壌肥沃度の空間変動が大きい地域において、化学肥料の効率的な利用や稲作収量および農家所得の向上を図る施策として利用できる。
  2. 施策の実施においては、土壌解析と情報提供に要する費用を考慮し、費用対効果を総合的に判断する必要がある。
  3. 他地域への応用にあたっては、農家の施肥状況やリン以外に施肥効果に影響を与える要因に応じた情報設計が求められる。

具体的データ

分類

行政

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム

受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究期間

2017~2024年度

研究担当者

尾崎 諒介 ( 社会科学領域 )

科研費研究者番号: 80965244

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

Andriamananjara Andry ( アンタナナリボ大学 )

Rakotonindrina Hobimiarantsoa ( アンタナナリボ大学 )

櫻井 武司 ( 東京大学 )

科研費研究者番号: 40343769

ほか
発表論文等

Ozaki et al. (2024) Agriculture & Food Security 13:45.
https://doi.org/10.1186/s40066-024-00500-5

日本語PDF

2024_B06_ja.pdf523.61 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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