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1161. アフリカの“農家知識”を技術普及に活かす

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1161. アフリカの“農家知識”を技術普及に活かす

 

研究の指針「君の研究は私たちの生活をどう良くしてくれるのか?」

これは私が実際に以前の調査地であったケニアの農家に言われた言葉です。農家にしてみれば、研究なんかしないでその分のお金を支援して欲しいと考えるのも当たり前です。しかし、アフリカの現状では、短期的な物資の支援だけでなく、研究を通して新技術を開発したり、その地域に最適な農法を明らかにし、普及して農家が使えるようにする必要があります。国際農研では技術開発だけでなく、その社会実装(実際に農家に使われること)までを研究対象としており、現地に根づく研究ができる利点があります。

 

“農家知識”を技術普及に活かす

さて、私の研究ですが、「技術普及のための“農家知識”の理解」をテーマにアフリカを対象地域としています。“知識”というと学校の授業で習ったりすることを連想しますが、そうした知識とは別に、農家が日々の経験の中で知る経験的知識を“農家知識”と呼びます。現在まで、持続的農業を可能にするとされるたくさんの技術がアフリカに普及されていますが、農家に使われない・使ってみてもすぐ止めてしまうという問題があります。特にサブサハラアフリカでは、普及が難しいとされています。その問題を解決する手段の一つとして考えられているのが、“農家知識”の理解です。農家が日々の農作業の中で何を大切にし、何を困難に思っているのか、土や作物の特徴をどう理解しているのか、を私たち研究者が理解することができれば、農家の希望に沿った技術開発や、農家に受け入れやすい方法での技術普及も可能になると考えています。研究対象国はガーナとマダガスカルで、ガーナでは畑作、マダガスカルでは水田農家を対象にしています。

 

ガーナ:農家は有機物をどう使っているのか?

ガーナでは、北部の農村で、有機物の利用について、農家に聞き取り調査を行っています。家畜フンなどの有機肥料は価格の高い化学肥料よりも安価に手に入ります。また、アフリカの土に入っている有機物の量は元々少ないので、土の中の有機物量を増やすことが出来れば、化学肥料の効果を向上させたり、土壌劣化の抑制にもつながります。しかし、現状ガーナで使われる有機肥料量は少なく、今後の有機肥料の適切な利用方法を考えるために、現状を知る必要があります。調査からは、家畜を飼っているものの放し飼いなのでフンが集めにくいこと、家から畑までの距離が遠いので家畜フンの運搬が大変なこと、有機肥料の量が少ないのでトウモロコシなどの作物にしぼって撒いていること、などの有機肥料利用における実際の問題点や農家の知恵が分かってきました。

 

マダガスカル:リンの少ない水田はどこ?

マダガスカルでは、過去の国際農研の研究成果として、植物栄養の一つであるリンの少ない(低リン)水田に有機肥料を入れるとその施用効果が高いことが発見されました。なので、「低リン水田に有機肥料を入れるといいよ!」と農家に伝えたいところですが、「どんな水田が低リンなのか?」が分かっていません。そこで、低リン水田を含む低栄養水田にどんな特徴があるのかを農家に聞き、農家知識の中で低リン水田に関わるものが見つけ、「皆さんご存知の〇〇は低リン水田の特徴ですよ!そこに有機肥料をまいてね!」と言えることを目標に研究をしています。農家にはインタビュー形式で質問をしますが、やり方が少し独特で、より詳しい情報を教えてもらえるように質問を深堀していきます。少し紹介すると、私「低養分水田にはどんな特徴がありますか?」、農家「コメの収量が低いね。」、私「なんでコメの収量が低いんですか?」、農家「・・・初期生育が悪かったから。」、私「なんで初期生育が悪いんですか?」、農家「土が冷たいんだよ。」、私「なんで土が冷たいんですか?」、農家「・・・土が固いから水が抜けない。」、私「なんで土が固いんですか?」、農家「知らないよ!もともとそういう土だよ!」と答えが続かなくなるまで聞いていきます。何度も質問していくと面倒くさそうにされることもありますが、詳しく水田の歴史などを教えてもらえることもあります。実際の水田や周辺環境を見ながら、その場で育まれてきた農家の英知に触れることはとても楽しく、フィールドワークの魅力だと思います。

 

フィールド研究に必要なものはずばり体力!

フィールドワーク大好きな私ですが、フィールドを駆け回る体力がないのが、昨今の悩みです。ガーナでは「すぐそこ」の畑まで延々と歩かされ(現地農家の「すぐそこ」は信じてはいけません)、マダガスカルでは細い畔と急傾斜のアップダウンにヘロヘロになりまして、農家のおじいさんの持っていた木の杖(棒)をお煎餅2枚で譲ってもらいよぼよぼと移動していました。このままではいい研究ができないと重い腰をあげて、現在は体力づくりに取り組んでいます。

 

 

*表紙写真:ガーナ、大学構内の土壌断面図の中より

*研究者こぼれ話:マダガスカルで一番美味しかったのは、「Bol renversé」(逆さ丼)。ガラスのボウルに目玉焼き、肉海鮮野菜炒め、ごはんの順に入っていて、お皿にひっくり返して食べます。アジア系の味付けで比較的新しいマダガスカル料理ですが、人気は高いようです。


本稿は、広報JIRCAS記事を再掲しています。

 

(文責:社会科学領域 八下田佳恵)
 

 

 

ガーナ、農家への聞き取り調査

ガーナ、グループでの農家への聞き取り調査、肥料になる雑草について教えてもらっています。

ガーナ、畑の土を見せてもらいます。有機物が少ないので土の色が淡いです。

ガーナ、放し飼いのニワトリ、このフンを集めるのは大変。。。

ガーナの畑、一つの面積も広いし、家からかなり遠い所にもあります。

マダガスカル、農家への聞き取り調査風景。右の調査員に通訳してもらいます。

マダガスカルの棚田、急傾斜も細い畔も農家や圃場スタッフはすいすい歩きます。

マダガスカル、牛小屋、ここに藁や雑草を入れ牛フンとまぜて肥料を作ります。

マダガスカル、調査後に農家さんの作ってくれたお昼ご飯をみんなで。マダガスカルの人はお米が大好きなので、たくさん出てきます。

Bol renversé(逆さ丼)

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