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7. イネ遺伝資源に関する国際共同研究体制の必要性
日本では様々なコメの品種改良が行われ、国内各地域に適応したコメ品種が生みだされてきました。一方で、世界の貧困地帯は熱帯などの開発途上地域に集中しており、コメも主要な食料の一つとして利用されています。近年、温暖化や異常気象が進む中、コメの品質が低下したり、安定的に十分な収量を得られなくなることも危惧されています。気候変動による天候不順等に備え、コメの安定生産を図ることが、開発途上地域の貧困の解決や社会の安定化、ひいては日本の食料安全保障にも大いに貢献することになります。国際農研では、コメ遺伝資源および育種素材の保存と利用に向けた国際的な協力体制の確立に貢献するため、育種素材の確保とそれらに対する基礎データベースの開発に取り組んでいます。
6. 気候変動と世界食料生産危機 - 持続的資源・環境管理技術への期待
2019年、権威ある国際機関がこぞって気候変動と環境劣化の進行が予想以上に進行していることに警鐘を鳴らしました。環境劣化・気候変動は農業への負のインパクトをもたらすと同時に、農業自身が環境劣化と気候変動の主要な原因の一つでであることにも着目しなければなりません。農林業その他土地利用(Agriculture, Forestry and Other Land Use -AFOLU)は、人間活動を原因とする温室効果ガス(GHG)の23%を占め、AFOLUの変化はまた、人間活動に起因する生物多様性の喪失の主要な原因となっています。食料・栄養安全保障の達成を目指しつつ、将来取り返しのつかないリスクを回避するためには、AFOLUによる気候変動や環境への負の影響を最小化していく技術開発と普及が必要です。国際農研は、水・土壌・肥料等の農業資源を持続的、安定的に活用しつつ、生産性を改善する技術開発を通じて、農業の持続的集約化の実現と気候変動問題への貢献を目指しています。
5. 熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発
アフリカをはじめとする開発途上地域には、土壌の低肥沃度や干ばつ等の不良環境のために農業生産の潜在能力が十分に発揮できていませんが、こうした地域の小規模農民の多くは、気候変動をもたらす原因に最も関与していないにもかかわらず、最大の被害を被ることが予測されています。世界的に貧困・飢餓の撲滅を達成するには、土壌や水資源に恵まれない熱帯等の開発途上地域における食料増産・安定化を推進するための技術開発が極めて重要です。国際農研では、アフリカをはじめとする開発途上地域において、農産物の安定生産技術の開発に取り組んでいます。
4. ウユニ塩湖のキヌア -「スーパーフード」孤児作物研究の意義
“世界一の「奇跡」と呼ばれた絶景”として有名なボリビアのウユニ塩湖ですが、その近辺の畑地は塩分濃度が高く、作物にとっては不毛の大地です。こうした厳しい環境でも育つ極めて希少な作物に、近年「スーパーフード」として注目を浴びているキヌア(quinoa)があります。世界各地には、栄養価に優れながら、品種改良のための研究が十分行われてこなかった作物が多くあり、これらは「孤児作物 (orphan crops)」などと呼ばれています。国際農研は、キヌアの品種改良・高付加価値化への道筋をつけるのみならず、厳しい環境・気象条件に適応する作物のメカニズムを明らかにすることで、気候変動に対する育種戦略への知見を得ることを目指しています。
3. 世界の食料・栄養安全保障に関する農業研究の視点の変化
持続可能な開発目標(SDGs)では、飢餓の撲滅が目標の1つに掲げられています。また、今年2020年12月には「東京栄養サミット2020 (Tokyo Nutrition for Growth Summit 2020)」が開催されます。栄養不足、微量栄養素不足、肥満などの栄養不良は喫緊の地球規模課題です。農業は今、いかに地球に負担をかけずに健康的な食料を安定的に供給できるシステムを構築できるかが求められています。国際農研では、アフリカの農村部で農家調査を行い、食事や栄養供給についての実証分析を進めています。実効性のある農業・栄養介入の方法を探り、世界の食料・栄養安全保障への貢献を目指しています。
2. サバクトビバッタの予防的防除技術の開発に向けて
サバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)は現在、東アフリカ、アラビア半島、インド・パキスタン国境沿いで猛威を振るい、深刻な食糧危機を引き起こしています。このバッタによる被害は世界人口の1割に、地球上の陸地面積の2割に及び、年間の被害総額は西アフリカ地域だけでも400億円以上に達する地球規模の天災として恐れられています。現在はコロナウイルスの問題も併発し、国を越えた支援活動に大きな支障が出ることが懸念されています。国際農研は、豊富な海外での研究活動の経験を生かし、サバクトビバッタの屋外における行動習性の研究を通じて、大発生の予知を可能にし、環境保全を考慮した持続的な防除システムの構築を目指します。
1. 持続可能な開発目標(SDGs)と農業研究 - 国際農研@50周年
国際農研は今年2020年で創立50周年記念を迎えます。これを機に、国際農研の情報収集・提供プログラムでは、気候変動や食料問題などに関する世界のニュースや話題をピックアップし、その分野と関連する国際農研の研究活動を紹介するコーナーを設けることにしました。第一回目である本稿では、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するための農業研究の必要性を概観します。今後も、話題のニュースと国際農業研究を絡めたトピックを取り上げていきますので、ご期待ください。
World Agroforestry他共編「クライメート・スマート・アグリカルチャー [Climate-Smart Agriculture: Enhancing Resilient Agricultural Systems, Landscapes, and Livelihoods in Ethiopia and Beyond]」概要
世界経済フォーラム (World Economic Forum) (2020)「グローバル・リスク報告書 2020: Global Risk Report 2020」概要
国際連合食糧農業機関(FAO) (2019)「農業・農村におけるデジタル・テクノロジー: Digital technologies in agriculture and rural areas – Status report.」概要
国際連合環境計画(UNEP)「Emissions Gap Report 2019(温室効果ガス排出抑制目標ギャップ報告書)」概要
国連環境計画(UNEP)の報告によると、過去10年間、世界の温室効果ガス排出は年率1.5%で増加を続け、2018年には二酸化炭素換算で史上最高の553億トンに達した。2020年から2030年の間、温室効果ガス排出を毎年7.6%減らさなければ、パリ協定のゴールを達成し、気候変動によるインパクトを抑制するための機会を逃しかねない。
世界気象機関(WMO)「WMO温室効果ガス年報 WMO GREENHOUSE GAS BULLETIN」概要
世界気象機関(WMO)は、地球温暖化を引き起こす大気中の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)の世界平均濃度が 乾燥櫛状最高値を更新し、1750年を基準とした産業化前に比べ、147%(CO2)、259%(CH4) 、 123%(N2O) 、高い水準であると発表した。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)「先進型バイオ燃料-阻害しているのは何か?」の概要
先進型液体バイオ燃料は、排出削減目標や国際気候約束を達成するための低炭素型運輸システムの実現に不可欠である。液体バイオ燃料の利用は、既存の燃料供給インフラや車両構造の改良がほとんど不要であるため、迅速に普及することが可能であり、温室効果ガスの排出削減に資する。本報告書は、先進型バイオ燃料への投資の阻害要因を分析したものである。バイオ燃料製造企業の責任者へのアンケート調査の結果をもとに、化石燃料と競合環境にある中でバイオ燃料の市場を開拓し、生産を拡大していくための課題について論じている。
World Agroforestry (ICRAF)のCathy Watson氏によるセミナー
11月11日、ナイロビに本部のあるワールド・アグロフォレストリーのCathy Watson氏がセミナーを行い、昨今の気候変動・生物多様性をめぐる危機に対する解決策としてのアグロフォレストリーの役割と意義について、途上国からの多くの事例を交えて発表しました。
タイ農業局において、ツマジロクサヨトウの研究ニーズに関する会議を開催
国際農研は、2019年10月17日から18日にかけて、タイ農業局と共催で、農業・食品産業技術総合研究機構の研究者とともに、ツマジロクサヨトウの総合的管理体系構築に向けた研究ニーズの検討を行いました。
国際連合食糧農業機関(FAO)「2019年世界食料・農業白書 [THE STATE OF FOOD AND AGRICULTURE 2019]」概要
食料システム全体の効率性を改善し、食料栄養安全保障と持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する上で、食品ロス(Food loss)と廃棄食品(Food waste)の削減は欠かせないが、食品ロス・廃棄の現状に関する情報・知識不足がその実現を困難にしている。2019年世界食料・農業白書は、食品ロス指標(FLI: 小売に到達する前段階までのロスを含む)と食品廃棄指標(FWI: 小売・消費段階でのロス)を提起し、FLIについては初めて14%という推計値を公表した。
国連気候変動サミット科学諮問グループ(The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit 2019)「科学を通じた団結 - 最新気候変動科学に関するハイレベル報告書 [United In Science - High-level synthesis report of latest climate science information]」概要
2019年9月にニューヨークで開催された国連気候変動サミットに合わせ、世界気象機関(WMO)や国連環境計画(UNEP)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)など、気候変動研究に関わる世界トップの機関が、温暖化対策への合意と益々乖離しつつある現状に警鐘を鳴らす報告書を共同で公表した。本報告書「科学を通じた団結(United in Science)」は、気候変動の現状と温室効果ガスの排出や大気濃度についてのトレンドを示し、将来取り返しのつかない気温上昇リスクを回避するため、土地利用やエネルギー部門において抜本的な社会経済構造の転換の必要性を訴えている。また、気候変動緩和・適応双方に貢献しうるツールについても検討している。
農業農村技術協力センター(CTA)「アフリカ農業デジタライゼーション〈デジタル革命〉報告書2018-2019年版 [Technical Centre for Agricultural and Rural Cooperation(CTA): The Digitalisation of African Agriculture Report, 2018-2019.」概要
アフリカは、気候変動に対応しつつ、食料・栄養安全保障を達成するために、現状の生産性水準を大きく引き上げる必要にかられている。アフリカ諸国にとり、農場・農家・アグリフードセクター全体に影響を及ぼす農業デジタル革命 (digitalisation for agriculture – D4Ag)は、農業部門の構造変革を加速させるゲームチェンジャーとなりうる。本書は、2019年時点におけるアフリカのD4Agの現状と、今後3-5年間の展望、さらなる発展に必要な対策、等について論じる。
気候変動適応グローバル委員会(The Global Commission on Adaptation)「直ちに適応せよ:気候変動への強靭性推進リーダーシップに対する世界的な要請[Adapt Now: A Global Call for Leadership on Climate Resilience]」概要
気候変動は、世界中の地域・社会のあらゆる分野における人々・環境・経済に広範囲かつ壊滅的な影響を及ぼしつつあり、今日、人類が直面する最大の危機の一つである。貧しく、つつましい生活を送り、気候変動をもたらす原因に最も関与していない人々ほど、皮肉にも最大の被害を被っている。適切な適応策の採択は、将来の損失回避、イノベーションを通じた経済利益の創出、社会・環境的な便益の提供、を通じて、「トリプル・ディビデンド(3重の配当)」をもたらしうる。
タイ科学技術博覧会2019で国際農研の研究成果を展示
タイ科学技術博覧会2019において、国際農研はチーク材中に固定されているCO2量の推定法およびタイの伝統的発酵食品であるカノムチン製造工程の科学的解明に関する研究成果の展示を行いました。