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72. Global Food Security論文: アフリカにおける農業機械化にまつわる俗説・現実・研究アジェンダ

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Global Food Security誌は、論文「アフリカにおける農業機械化にまつわる俗説・現実・研究アジェンダAgricultural mechanization in Africa: Myths, realities and an emerging research agenda」をオンライン公表しました。

アフリカ農業システムは、世界で最も機械化が遅れています。その結果、農民所得と食料栄養安全保障の決定要因でもある農業労総生産性は長年停滞したままでした。1960-70年代に国家主導で機械化を推進する試みがありましたが、ガバナンスの問題で多くが失敗しました。このため、アフリカは機械化導入の機が熟していないとの見方が主流となり、その結果研究も進みませんでした。しかし近年、農業機械化が再びアフリカ開発アジェンダに挙げられるようになり、とりわけ若者を農業に引き付けるために、政府が音頭をとって鍬と舶刀から機械化への移行を目指しています。開発パートナーも機械化推進を開始し、世界の主要な農業機械企業もアフリカを新興市場として認識するようになっています。

アフリカにおける機械化への関心の高まりの背景として、幾つかの国において、農業集約化と農村賃金上昇により土地造成のための労働不足が潜在化していることがあげられます。人口圧と市場アクセスにより、局地的な農業機械化地域も現れ、たとえばガーナの複数の行政地区では農民の80%が何らかの農業機械を利用しているようです。エチオピアでは、農村賃金上昇と使役用家畜費用の上昇が機械化と正の相関があると報告されています。さらに、インドや中国からの輸入で機械の値段も下がってきています。「中規模農家」の発現は、Uber的な取引費用を削減するモバイルツールを活用したサービスを通じ、賃貸トラクター市場発展の展望を示しています。

一方、過去の国家主導機械化プログラムの失敗により、機械化に関する研究が停滞する中、「機械化は失業を生み出す」、「小規模農民は機械化によって不利益を被る」といった言説が流行りました。著者らは、こうした9つの言説について文献レビューを通じ検討した結果、それらの殆どは、相反するエビデンス、あるいは全くエビデンスがないものもあり、よって「俗説(myths)」であると結論づけました。こうした俗説は政策・プログラム形成に負の影響を与え、アフリカにおける農業機械化を通じた世界食糧安全保障へ貢献する道を閉ざすことになりかねません。著者は、持続的で包括的な農業機械化のために、エビデンスに支えられた政策を支援するための研究アジェンダの提案を試みています。

アフリカ諸国、さらに一国内でも、経済条件(土地のアベイラビリティ、農村賃金)、農業気候条件(降雨パターン、作物、土壌タイプ)、社会条件も異なります。地域ごとに農業機械化導入の分析を行い、経済・農業気候・社会的要因を考慮したコンテクストに応じた適切な技術・制度的解決策に基づく政策やプログラム設計が必要となります。このようなアプローチを通じ、失業など農業機械化による潜在的に負の影響を回避することが可能です。本研究では、農業機械化導入において、複合的な視点からのトレードオフに関する研究が十分進んでいないことが判明しました。小規模農民が機械化からの恩恵を享受するには、俗説に惑わされず、エビデンスに基づいた議論が行われるべきです。

 

参考文献

Thomas Daum, Regina Birner, Agricultural mechanization in Africa: Myths, realities and an emerging research agenda, Global Food Security, Volume 26, 2020, 100393, https://doi.org/10.1016/j.gfs.2020.100393.

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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