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101. Food Security誌: COVID-19における栄養のための強靭なアグリ・フードシステム

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国際馬鈴薯センター(CIP)の研究者らは、Food Security誌において、「COVID-19における栄養のための強靭なアグリ・フードシステム」論文を発表しました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は途上国におけるフードシステムに影響を及ぼしています。人やモノの移動規制はマーケット・アクセスやサービス、食料へのアクセスを阻んでいます。フードシステムの物質的・ハードウェアの側面を脅かす他の危機と異なり、COVID-19は、これまでのところ、フードシステムのソフトウェア的な側面に影響を及ぼし、フードシステム上、様々な事柄がつながりあっていることを露にしました。需要の落ち込み、マーケットと雇用の喪失、国際協力への懸念は、今後さらに深刻な問題が待ちかまえていることを示唆しているかのようです。不確実性の中で、世界の貧困層の食料・栄養安全保障を守るためには、生産と市場の多様化戦略を優先すべきです。ジャガイモやサツマイモ、小麦やメイズ、豆といった栄養成分強化作物(biofortified crops)は、必要な微量栄養素(ビタミンA、鉄分、亜鉛)などを大規模に供給する上で重要な役割を担う期待があります。COVID-19は、フードシステムにおいて、栄養成分強化作物の開発と普及を含む農業イノベーションへの機会を提供していると考えます。現在の供給と需要の寸断を修復し、フードシステムが将来の危機に備えることを可能にするでしょう。

ジャガイモ・サツマイモは、高収量で収穫までの時間が短い作物ながらローカル市場での需要が高く、国際価格の急騰から遮断されているという比較優位を踏まえ、アフリカ、そしてその他の地域でも、自然災害後に「危機対応型作物」として用いられてきました。これらイモ類はまた、アジアのように穀物一辺倒になりがちなローカルフードシステムの多様化に貢献し、ショックに対する強靭性・回復力を強化するのに貢献してきました。緊急支援を通じて種芋と技術支援を受けた農民は迅速にジャガイモ・サツマイモ畑を作ることで、数年間は追加的支援なくとも生産を維持できるとのエビデンスも知られています。短い栽培期間により、ショックの影響を受けた家計やコミュニティに迅速に食料・飼料を供給することが可能です。干ばつ・病害耐性品種はマージナルな生態系条件での収穫を、余剰は家計のニーズに応えるための現金収入を提供します。さらに、ビタミンAや鉄分など必要な微量栄養素を有する改良品種は、とりわけ栄養に富んでいます。

研究によると、改良品種を採択した世帯は、高収量と高収入を達成し、食料安全保障の危機から解放され、多様な栄養によるよりよい健康状態を維持できています。

緊急支援介入を機に、栄養素の改善された改良品種が広く普及したという事例も報告されています。例えばモザンビークでは、過去10年の間に政府や支援機関を通じて普及が行われた結果、今日、サツマイモの三分の1がビタミンA強化品種であるそうです。同様に、ケニアの2008・2009年政情不安においては、貧困層向けの特性を持つジャガイモの改良品種の種イモ供給に、民間セクターが参入しました。また、東アフリカにおいて、2012年のメイズ病害発生(トウモロコシ致死性壊死病maize lethal necrosis)や2018年のツマジロクサヨトウ(fall army worm)発生に乗じて、代替の混作・間作作物としての豆やジャガイモなどの生産が増加しました。栽培期間の短い作物は、メイズ収穫前の食料不足期間のギャップを埋めることで、国レベルでの食料栄養安全保障につながります。

ローカルフードシステムの多様化と強靭性を高める上で、種企業は多くの作物についての種のみならず情報提供など複数の機能を持ちます。農村企業やサプライヤー・消費者のネットワークは、将来の危機対応上も重要なパートナーとなりうるでしょう。

本論文の結論において、著者らは、ケニアでは輸出需要の喪失に直面した民間バラ生産業者が、そのキャパシティと知識を活かしてイモの挿し木苗を現地食料生産向けに発売したことに言及、将来、東アフリカの花卉・青果物産業の生産キャパシティのほんの一部をローカル食料生産に振り分けることで、輸出とローカルな種子生産による食料安全保障を達成しうる可能性を指摘しました。

 

参考文献

Heck, S., Campos, H., Barker, I. et al. Resilient agri-food systems for nutrition amidst COVID-19: evidence and lessons from food-based approaches to overcome micronutrient deficiency and rebuild livelihoods after crises. Food Sec. (2020). https://doi.org/10.1007/s12571-020-01067-2

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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