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76. Science of The Total Environment論文:COVID-19:の気候変動非常事態への教訓

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2020年6月、Science of The Total Environment誌は、「新型コロナウイルス感染症COVID-19:気候変動非常事態への教訓 (Lessons for the climate change emergency)」をオンライン公表しました。論文は、COVID-19危機と迫りくる世界気候非常事態の類似性と差異を比較し、現在のパンデミック危機から世界気候危機を乗り切る心構えについての教訓を引き出そうと試みています。

  1. 強い慣性トレンド(high momentum trends):タイムラグとも解釈できるが、SARS-CoV-2ウイルス拡大の把握が困難である背景に、長い潜伏期間、無症状感染者の多さ、指数関数的増加率といったウイルスの性質があり、パンデミック危機管理を極めて困難なものにしています。同様に、一般市民や政策策定者にとり、気候変動は複雑でさらにゆっくりとした時間軸を持ちます。気候変動モデルと長期予測は直観的・短期的な思考をしがちな一般市民や政策策定者に判りづらく、気づいたときには既に防止が手遅れになりかねません。ここから得られる教訓は、初期の対応策が懲罰的であったとしても、早めの段階で科学的要請に基づく対応策の重要性を軽視することは、長期的により高いコストを伴うことを意味しています。
  2. 不可逆的変化(irreversible changes):COVID-19の問題の一つは、集団においてウイルス感染率がある一定水準を超えると、コントロールが極めて困難になることです。気候変動も同様に、いったん気温がある一定水準を超えると急に不可逆的な変化が起きることが予測されています。
  3. 社会的・空間的不平等(social and spatial inequality):COVID-19危機は、気候変動危機と同様に、国々・社会グループ間で不均衡なインパクトをもたらします。COVID-19は高齢者や呼吸器に既往症を持つ人々、また医療システムに課題がある国々において、被害がより大きくなります。最近、先進国での感染率が下落傾向にある一方で、途上国での感染者数が増えています。こうした国々における経済資源・社会安定性・インフラ等の不備は、社会を必要以上のリスクにさらすでしょう。気候変動も同様に、先進国は気候変動防止対策や復興に投資できるのに対し、国際連携不在の場合に最も被害を受けるのは途上国であり、COVID-19はさらに状況を悪化させるでしょう。
  4. 国際的連帯の弱体化(Weakening of international solidarity):現在のCOVID-19危機は、限られた資源を巡って国々が競合する高度にグローバル化した世界が直面することになった最初の危機といえるかもしれません。国々は他国民を差し置いて自国民の利害を優先しようとします。ワクチンが開発されたとしても、公平で効率的に分配するための仕組みには不確実性が伴い、国際紛争やアクセスの不平等も起こりかねません。気候変動は、さらに深刻なシナリオを辿るでしょう。次第に頻発化する異常事象や世界の食料・水不足は、資源を巡る競争や大規模な移民の動きをもたらし、国々の間の連帯が試されることになります。
  5. 治療・適応コスト>予防・防止(緩和)コスト(less costly to prevent than to cure):気候危機もパンデミックも最悪のケースを回避するために初期での対応が必要です。しかし危機がいったん回避されるように見られると、予防・防止コストは無駄とみなされる傾向があります。

COVID-19と気候危機の間には、進行のスピードなど、明らかな違いもあります。COVID-19危機は気候危機に比べて展開もコントロールも速度が速い傾向がありますが、気候危機の影響はより甚大です。COVID-19の影響の同時性に対し、気候変動の影響は世界各地で頻度・強度・タイミングとも様々です。社会的距離など個人の行動による効果が明らかなCOVID-19に対し、気候変動の影響は間接的で拡散するため、個人の行動を変える誘引になりにくい傾向にあります。最後に、気候変動に対するワクチンや治療法はなく、気候変動傾向を反転させる試みは成果が目に見えるまで数十年かかる可能性があります。COVID-19危機は、気候危機においても、早めの予防・防止(緩和)策が最悪の結果を回避する上で極めて重要であることを示唆しています。

 

 

参考文献

Manzanedo RD,  Manning P. (2020)  COVID-19: Lessons for the climate change emergency. Science of The Total Environment Volume 742, 10 November 2020, 140563 https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.140563 

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

 

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