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75. Nature Climate Change論文:相互に関連する異常事象についての理解と対応のための考察

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2020年6月、Nature Climate Change誌にて、「相互に関連する異常事象についての理解と対応のための考察:Understanding and managing connected extreme events」論文が発表されました。異常気候そしてそれらのインパクトは、物理的な要因と社会的事情の相互作用を通じて複雑に絡み合っています。様々な人為的対応がフィードバック・ループを通じて事態をさらに深刻化させる場合もあります。相互に関連する事象の発生について異分野連携を通じた議論が必要であり、著者らは意思決定を促すためのアプローチを提案します。

2017年、カリブ海東部を複数のサイクローンが襲来しましたが、続けざまに起こる嵐や、数週間前のハリケーン・ハービー被害によるアメリカ緊急支援の対応の遅れによって、不動産やインフラに破壊的なダメージをもたらしました。2018年春、ヨーロッパにおける異常に寒冷で多雨な気候によって冬穀物の収穫に影響を与え、引き続く暑くて乾燥した夏がその後の農期に影響を及ぼし、EU統合市場において小麦・大麦価格の30%上昇をもたらしました。著者らは、これらの極端な事象を「相互関連” connected” 」と定義、個々あるいは単独で生じる同様の異常事象に比べ、インパクトが増幅されるような物理的・社会的メカニズムの相互作用の多様性と複雑性を指します。

著者らは、食料(food)・水(water)・保健(human health)・インフラ(infrastructure)・保険(insurance)の5セクターにおける研究や現場の経験を通じて相互関連異常事象を振り返り、現在のリスク管理アプローチの不備について論じました。その上で、相互関連する異常事態に関するリスク軽減と強靭性強化のための適応・緩和戦略に関する政策提言を行っています。ここでは、食料について、相互関連する異常事象にいかに影響を受けるか、現状の対応と効果、新たな意思決定に必要な協力体制に必要な知識、について議論します。

農業セクターは、多種多様な農業システムと体系的なリスクにさらされる食料供給・需要・貿易の複雑なネットワークから構成されています。このコンテクストの観点から、相互関連する異常事象は地域・グローバルな食料安全保障を脅かしかねません。作物は水不足を伴う高温・乾燥事象にとりわけ脆弱であり、労働者や家畜は生理的ストレスを引き起こす高温・多湿事象の負荷を受けます。

作物の成長過程における作物の生理機能と特定の圃場条件に応じて、異常事象の連続的発生は全体のインパクトを悪化させます。シーズン初期の洪水は圃場の整備と作付を遅らせ、農作業のタイミングをずらすことで、シーズン後半にて霜害や干ばつリスクにさらすことになります。初期の多湿条件はまた、根の伸長を妨げたり害虫蔓延の条件を生み出すことで、作物の異常事象への適応能力を弱体化させます。あるいは、シーズン当初の干ばつによって水資源を使い切ってしまうと、渇水期における脆弱性を高めてしまいます。

現在、作物モデルは日々の水・窒素・高温ストレスを分析し、最大のストレス要因に対応しますが、複数の危機が絡まった問題への対応はできていません。統計的な作物モデルの収量予測も課題を抱えています。正確性を期すには、異常事象のタイミング同様、異なる変数についてシーズン初期・後期の異常気象の順序・関係性について配慮する必要があります。

異常事象が2か所以上の農業生産ゾーンを襲い、複数の穀倉地帯が不作に陥る結果、世界食料生産と価格に大きな影響を及ぼしうる状況があるとします。こうした状況は地域レベルでの独立の異常事象がランダムにしかし同時に起こる場合、あるいは気候変動の遠隔相関によって引き起こされます。ここ数十年、世界農業生産が少数の地域に統合され、モノカルチャーシステムが拡がる中、少数の地域レベルでの異常事象が同時発生することで広範囲なインパクトを及ぼす可能性も増えてきました。農業貿易は地域生産と水の需給バランスを結びつけて長期均衡を達成しています。しかし、圃場からグローバルマーケット、グローバルマーケットからスーパーマーケットに陳列されるに至るまでのバリューチェーンにまたがる活動に関してのシミュレーション(模擬実験)が行われることは稀であり、相関する異常事象が引き起こすショックへの強靭性を強化する計画の妨げとなっています。

フードシステムへのショックを回避するには、ローカルレベルにおいて異常事象が連続して起こるインパクトとリスクを十分理解し、早急に農業・貿易上の対応がとれるようにしなければなりません。補足ですが、フードコンテクストにおける異常事象の関係性は、農業以外の輸送や加工といった要因に現れることもあり、気候変動研究を行う上で念頭に置いておくことが役に立つでしょう。

参考文献

Raymond, C., Horton, R.M., Zscheischler, J. et al. Understanding and managing connected extreme events. Nat. Clim. Chang. (2020). https://doi.org/10.1038/s41558-020-0790-4

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