Nature Climate Change誌は、「東アフリカにおける気候変動とバッタ大発生Climate change and locust outbreak in East Africa」報告を掲載しました。

ある事象が起きた場合にその原因を気候変動のせいにすることは難しいです。しかしながら、気温上昇や砂漠地帯への降雨量増加や熱帯サイクローンに伴う強風など、気候変動は害虫の繁殖・生育・移動に適した環境を新たに提供します。このことは、地球温暖化はサバクトビバッタの発生に必要な条件を生み出すのに一役買ったと言えるかもしれません。

人為的に発生した熱の90％近くが海洋によって吸収されますが、インド洋西部は熱帯海洋システムの中でも最速で温暖化が進行し、夏の平均温度は1.2℃上昇しています。この温暖化が近隣地域の異常気象状況の頻度と強度を増加させています。アラビア半島を襲った史上最強のサイクローンは過去15年間に起きています。ソマリアを襲った史上最強のサイクローン・サガール(Sagar)は、メクヌ(Mekunu―2018年5月にアラビア半島を襲った強力な熱帯サイクローン。通常サイクローンは上陸前に勢力が弱まるが、Mekunuはオマーンを超えてサウジアラビアの空白地帯の砂漠に湖を作り出しました)の数週間前に生じ、2019年だけでインド洋上で8つの熱帯サイクローンが発生し、アジアと東アフリカに記録的な降雨をもたらしました。2019年の3～4月には、モザンビークはケネス・イダイという史上最強のサイクローンに襲われました。さらに2019年10～12月、正のインド洋ダイポール現象(positive phases of the Indian Ocean Dipole: IOD)* がいつになく強まり、東アフリカでの雨季でも史上稀にみる降雨をもたらしました。ジブチの街では、通常の2年間分の降雨量に匹敵する 336mmの雨が4日間に降りました。このような事象は将来より頻繁に起こることが予想されています。1.5℃気温が高まれば、極端な正のIODs現象が起こる確率は2倍になると予測されています。

サイクローン頻度の増加と極端な気候変動上昇は、害虫発生と拡散の確率を高めます。このことはサイクローンそのものに加え、食料安全保障の懸念が加わることを意味します。サバクトビバッタは緑の植生を何でも捕食するため、人間と家畜双方の食料安全保障にとって脅威です。最近のバッタ発生とインド洋温暖化の影響は、気候変動のインパクトが単に平均気温の変化だけでなく、未だかつてなかったような異常気象の発生をもたらすということです。このような異常気象は、政情不安や武力衝突、ガバナンスの問題、早期警告システムの脆弱性、限られた資金力のような気候以外の要因によるバタフライ効果によって悪化し、最も脆弱なコミュニティに打撃を与えます。途上国における早期警告システム強化などの分野において、先進国による支援が急務です。

国際農研では、豊富な海外での研究活動の経験を生かし、サバクトビバッタの野外での生態を研究することで、大発生の前兆となるメカニズムの解明を試みています (Pick Up 2  https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200308_0; FAQ https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/desert-locust   )。

＊(Wikipedia) (正の)ダイポールモード現象が発生すると、インド洋の西側にある東アフリカでは海水温の上昇により蒸発が盛んになり降水量が増加する。逆にインド洋の東側にあるインドネシアでは蒸発が抑えられるので降水量が減少する。両地域の大気の性質は、インド〜日本にかけてのモンスーンアジアの気象に多大な影響を持っているため、ダイポールモードによる大気の変化が伝播するとこれらの地域で異常気象を引き起こす。

参考文献

Salih, A.A.M., Baraibar, M., Mwangi, K.K. et al. Climate change and locust outbreak in East Africa. Nat. Clim. Chang. 10, 584–585 (2020). https://doi.org/10.1038/s41558-020-0835-8

Pick Up 2. サバクトビバッタの予防的防除技術の開発に向けて https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200308_0

（文責：研究戦略室　飯山みゆき）