国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

サバクトビバッタについて

2020-12-03

サバクトビバッタについて

農林水産省所轄の国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(国際農研)では、 これまでに「国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発(病害虫防除)」プロジェクトにおいて、「サバクトビバッタの防除に向けた生態解明」に取り組み、 発生地において群生相の幼虫や成虫がいつどこに集合しているかを明らかにするなど、効果的な防除に役立つ知見を得ているところである。先人の知見、これまでに得られた情報に基づき、昨今の東アフリカから南西アジアにかけて大発生中のサバクトビバッタについて解説する。

はじめに サバクトビバッタとは

サバクトビバッタは、深刻な農業被害をもたらす移動性害虫の一種である。西アフリカのモーリタニアから中東、インドまでの南西アジアにかけて広く分布し、約60ヵ国が農業被害に遭い、その面積は地球上の陸地面積の約20%、世界人口の約10%に及ぶとされる。

このバッタは、普段は数が少なく、見つけるのが大変である。しかし、諸々の環境条件が重なると、大発生し、天地を覆いつくすほどの巨大な群れを成し、農作物に甚大な被害を及ぼす害虫へと化す。このような劇的な変化が生じる原因の一つとして、このバッタが秘めている様々な能力が挙げられる。とくに、行動、形態、生理的特徴を混み合いに応じて変化させる特殊能力「相変異」を持つことである。普段の低密度下で育ったバッタは「孤独相」、一方、大発生時の高密度下で育ったものは「群生相」と呼ばれる。孤独相はお互いを避け合うが、群生相になると、お互いに惹かれ合い、群れて集団移動する習性を示す。形態的な変化は数日~数週間かかるが、行動の群生相化は数時間で起こり、形態的には孤独相だが、混み合いを経験すると群生相のように振る舞うようになる。1921年にロシアの昆虫学者ウバロフ卿が、トノサマバッタが相変異を示すことを発表し、その後、各大陸の穀倉地帯で大発生するバッタも相変異を持つことが報告された。群生相化したバッタは孤独相に比べ発育・繁殖能力が向上するため、爆発的な個体群の増加に寄与していると考えられている。群生相化したバッタが農業被害を及ぼすことから、バッタ研究の歴史は、1921年から始まったといっても過言ではない。今まで、FAO(国際連合食糧農業機関) が中心となり、サバクトビバッタ対策を長年にわたり牽引してきた。

FAQ よくある質問と回答

Q1 サバクトビバッタの大発生はどうやって起こるのか?

A 大発生に至るプロセスは、複雑でまだ不明な点があるが、干ばつ、大雨、風、植物、土壌、季節と密接に関係している。常に大発生しているわけではなく、「不定期」に「突発的」に大発生する特徴がある。

ほとんどバッタがいない状況から大発生に至る大まかな流れを説明する。通常の生息地は、常発生地域 (Recession area)と呼ばれ、西アフリカのモーリタニアから東はインドに広がる半乾燥地帯である。年間の降雨量が少なく、孤独相の成虫が未成熟(繁殖を始める前)の状態で細々と生息している。大雨が降り、エサとなる草(野草)が生えてくると孤独相の成虫はその草を食べて性的に成熟して交尾できるようになり、繁殖を開始する。広範囲にわたって十分な量の草があり、その好適な環境条件が続くと、さらに発育・繁殖が進み、個体数が増加する。乾季に伴い草が枯れ始める頃、エサが残っているエリアに成虫が集まり(自力飛翔と風による移動)、他の個体との接触により群生相化のスイッチが入って、行動、生理的特徴に変化が起きる。その子らが成虫になると群れで移動を開始し、常発生地域から侵入地域(Invasion area;普段は生息しておらず、大発生した際に侵入する地域)に侵入し、そこで農業に大きな被害をもたらす。侵入先の環境条件が好適であると繁殖をはじめ、さらに個体群が増大し、被害の程度、エリアが増加する。

現在問題となっている2020年の大発生も、干ばつの後にサイクロンによってもたらされた大雨がサバトビバッタにとって好適な環境を生み出したことが原因と考えられている。

Q2 サバクトビバッタの大発生はどうやって終わるのか?

A 雨が降らなければ、餌となる草が枯れ、産卵に適した湿った地中も失われるため、大群を維持できなくなり、最終的に死滅する。成虫は飛翔中、水面を避ける習性があるが、強風に運ばれて海で溺れ死ぬ場合、雪山に侵入し寒さで飛べずに死ぬ場合もある。また、天敵(捕食者、寄生者)の影響もある。1960年以降、殺虫剤を用いた防除活動が機能し、大発生の期間が短くなってきている。すなわち、自然と人間活動の両者がバッタ問題終息のカギを握っている。日本でトノサマバッタが発生した際、自然界に存在する昆虫病原糸状菌(カビ)の感染により死亡率が高まったと報告されている。しかし、乾燥条件下で大発生するサバクトビバッタにも感染して大発生を終息させるかどうかは不明である。

Q3 サバクトビバッタと普通のバッタは違うのか。バッタの種類を教えてほしい。

A 混み合いに応じて、行動、形態、生理的特徴を変化させる相変異を示し、大群を形成するものを「トビバッタ」、はっきり示さないものを「イナゴ=単なるバッタ」と区別し、それぞれ「Locust」、「Grasshopper」と記される。約6,800種知られているバッタ科の中で、真正なトビバッタは約20種とされている。本解説記事内における「バッタ」は「トビバッタ」にあたる。サバクトビバッタの英名はDesert locust、学名はSchistocerca gregariaである。現在、南米で大発生しているものは、同属別種のミナミアメリカトビバッタ(正式な和名は不明)Schistocerca cancellataである。日本にもいるトノサマバッタ(Locusta migratoria)もトビバッタの一種で、亜種が世界各地でたびたび大発生している。

Q4 サバクトビバッタの移動の特徴は?

A 群生相の群れは一日に100km以上風に乗って飛翔する。季節風に乗って移動し、「冬繁殖地」「春繁殖地」、「夏繁殖地」を渡り、繁殖に適した地域へと移動する。風に乗って移動した先に雨が降っていることが多く、結果として餌となる植物、産卵に適した地域に到達することができるとされている。鮭とは異なり、同じ個体が再び生まれ故郷に戻ってくることはなく、片道切符の移動として知られている。1988年には西アフリカから海を渡って、カリブ海まで到達したことが記録され、4000km以上飛翔したと考えられている。

群生相の成虫だけが長距離移動できると思われているが、実際には孤独相の成虫も長距離移動すると考えられ、群生相は日中、孤独相は夜間に飛翔移動するとされている。

Q5 なぜ世界中にサバクトビバッタは生息していないのか?

A サバクトビバッタは乾燥に適した種であり、通常は半乾燥地帯に生息し、大雨が降ると大発生する。なぜ最初からエサとなる植物が豊富な高湿度地帯で発育・繁殖しないのかは不明である。一方、トノサマバッタは雪が降る地域や高湿度地帯に適応しているなど、それぞれのバッタはそれぞれの環境に適応し、世界の穀倉地帯には固有のバッタが生息している。今までの研究では、サバクトビバッタは年間降水量が400mm未満の比較的雨量の少ない乾燥地域に生息しているが、 それ以上の降水地域で常に発生しない理由を追究した研究についての知識を持ち合わせていない。高湿度や天敵などが原因の一つになっていると考えている。

Q6 どこに産卵するか?

A メス成虫は腹部をアコーディオンのように伸ばし、先端の硬化した部位を使って地面を掘って湿った地中に産卵する(地下5~15cm)。サバクトビバッタの卵は、地中から水分を吸水しなければ孵化できない。水分を現地調達することで、メス成虫は腹部の卵を作るためのスペースを有効活用することができる。そもそもメス成虫は湿った地中にしか産卵しないので、もし湿った地面に遭遇できなければ、約3日間しか成熟した卵を体内で保持できないため、地上に産卵してしまい、その卵は死滅する。

Q7 何を食べるのか?

A 広食性で500種類以上の植物を食べる。バッタの発育ステージ(幼虫、成虫)によって好みが変わることがあり、同じ植物でも植物の成長ステージによって好んで食べたり食べなかったりする。食害される主な農作物として、穀物(トウジンビエ、ソルガム、トウモロコシ、コムギ、サトウキビ)、ワタ、果物がある。イネは水田で栽培されるためか、ほとんど食害されない(トノサマバッタはイネを食害する)。コーヒーもあまり食害されないが、大群が群がるとその重みで枝が折れるそうだ。中には、虫よけの木として知られるニーム(インドセンダン)などまったく食べられない植物も知られている。共喰いも報告されているが、主に死体、瀕死の個体を食べ、健全個体を襲って共喰いすることは報告されていないようだ(ただし孵化直後に先に孵化した個体から共喰いされることは報告されている)。農作物の食害の程度について、詳しい情報を入手するのは難しい。

Q8 現地ではどのような被害が起きるのか?

A 農作物を損失することによる経済的な被害が大きくなるだけではなく、家畜の飼料不足も問題である。食糧難に加え、生活のため自身の家畜を売るしかなくなるなど、生計の基盤が崩れる。現地で物価の上昇が起こるとさらに生活が困窮する。

Q9 インドにもバッタの群れが飛んできたと報道されているが、東アフリカからバッタの群れが中国や日本へと近づいてきているのか?

A 1年前からインド・パキスタンでサバクトビバッタはすでに大発生し、問題を起こしていた。2020年1月後半から東アフリカのサバクトビバッタ問題が大きく報道されるよりも前である。今年、6月に入ってからインドでのサバクトビバッタ問題が報道されたため、あたかも「東アフリカから、とうとうインドまで侵入してきた」と印象を受けている方が多いと思われる。さらに、南米でも2015年以降、サバクトビバッタとは異なる別種のバッタ(ミナミアメリカトビバッタ)が大発生して問題を起こしていたが、サバクトビバッタの報道に便乗する形で報道されたため、サバクトビバッタが東アフリカから南米まで飛んで行ったと勘違いされることも起きている。サバクトビバッタの詳細はFAOのウェブサイト(http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/index.html)で知ることができる。しかし、現在では実際に東アフリカからインドへと直接飛来する可能性をFAOが指摘している(2020年7月21日の時点)。

Q10 サバクトビバッタの群れはエベレストを越えることはできるか?

A サバクトビバッタは変温動物のため、低温下では飛翔できなくなる。国際農研の成果として、成虫は体温が21℃を超えないと、長距離飛翔できなくなることを確認している (Maenoら 2019)。成虫は0℃近くても短期間であれば生存できるが、標高が増すと低温により飛翔できなくなる。北アフリカのモロッコでは、雪山にサバクトビバッタの大群が舞い降りたものの低温のため飛翔できず、そのまま死滅したことがある。飛翔中に筋肉を動かすことで熱を生み出すと考えられるが、雪山では十分に体温をあげることはできないと思われる。

Q11 サバクトビバッタの中国、日本への飛来の可能性はあるのか?

A 正直、わからない。皆様と情報を共有し、一緒に予想することは有意義だと考えるので、考察してみたい。過去の文献(19世紀初頭から)では、サバクトビバッタの飛来地の限界はインドの東部までとされ、これまで中国へのサバクトビバッタの侵入が大きな問題になったことはないように思われる。中国に今まで侵入しなかったのは、山地の低温による侵入阻止や生息環境の違い等によると考えられる。しかしながら、サバクトビバッタの成虫は風に乗って移動する習性があり、サイクロンやジェット気流に乗って数百km以上の長距離移動することがあるため、東南アジア全域に侵入する可能性はゼロとは言い切れない。中国とイギリスの研究者が、過去の気象(気温、風向き、風速)と照らし合わせ、現在、インド・パキスタンで発生している群れが東南アジア全域や中国に侵入する可能性は限りなく低いとの予測がなされている (Wangら 2020)。

サバクトビバッタの日本への飛来が起こるかどうかは科学的根拠が不足しているため断言できないが、これまで観察されることはなかったことから、いくつもの条件が重ならないと起こりえないと考えられる。その条件として、1)出発地に大量のバッタがいること、2)気象条件が整うこと(気温、風、天気等)、3)長距離飛翔するために必要なエネルギーを貯蓄していること、等が考えられる。これらの条件が重なると大陸から日本に飛来する可能性は高まると考えられるが、その状況が生み出されることは確率的に限りなく低いと考えられる。ただし、過去には、フィリピンから沖縄にトノサマバッタの大群が飛来したとの報告があった(一次情報は探索中)。

サバクトビバッタの学名はSchistocerca gregariaである。現在、南米で大発生している同属別種のミナミアメリカトビバッタSchistocerca cancellataは、その昔、サバクトビバッタが西アフリカから新大陸に飛んでいき、北米大陸と南米大陸それぞれで分化したと考えられている。しかし、東アジアや東南アジアにはSchistocerca属のバッタは知られていない。これは、サバクトビバッタはそこに飛んで行っても定着できないことを示唆しているのではないかと個人的に考えている。また、アフリカ大陸にはサバクトビバッタの亜種がおり、南アフリカ近辺に生息している。その間の中央部にはSchistocerca属のバッタは分布しておらず、熱帯雨林は自然のバリアとしてみなされている。

Q12 万が一、サバクトビバッタの群れが中国へ飛来した場合、どうなるのか?

A 中国には別種のバッタ(トノサマバッタなど)が生息し、こちらも大発生する種のため、中国ではすでに防除資材や対策はある程度整っている。2017年に発表された「中国におけるバッタとイナゴの防除管理」(Zhangら 2017)によると、中国ではトノサマバッタに加えて数百種類のイナゴが農業被害を及ぼすことから、全国各地に127のフィールドステーション、2000人以上の技術者が監視と管理を行っている。たとえサバクトビバッタが侵入したとしても既存の管理体制を応用し、対策すると思われる。多くの大学、研究機関においても様々な分野でバッタに関する研究が行われている。

Q13 万が一、サバクトビバッタの群れが日本へ飛来した場合、どうなるのか?

A 日本は緑が豊富だが、サバクトビバッタにとって好ましい環境が通年であるかどうかは疑わしい。気温と発育については、平均気温38℃が最も発育速度が高く(早く成虫になる)、 気温が低くなるにつれ発育は遅くなり、19℃以下では幼虫は発育できない(幼虫期間が長ければ長いほど、防除しやすくなる)。卵は10℃以下を2週間経験するとほぼ死滅し、成虫は20℃以下では性成熟せず、繁殖できないことが知られている。産卵場所として、裸地(植物が生えていない)が好まれる傾向がある。降水量については、年間降水量400mm未満の半乾燥地域が常発生地域といわれているが、降水量の多い日本で繁殖を続けていけるかどうか不明である。こういったサバクトビバッタの基礎的な生態を知ることは、分布域や今後の侵入、繁殖、定着を推察する際に極めて役立つ(Uvarov 1966)。

飛来後の対抗手段として、トノサマバッタの防除技術を応用できると思われる。関西空港でトノサマバッタが大発生した時に、殺虫剤を使用し防除に成功している(田中 2015)。こういった空港のトノサマバッタ管理技術とサバクトビバッタ対策で用いられているモニタリングシステムとを融合することで対応策を準備できると思われる。生息環境の違い、天敵、バッタを特異的に殺す昆虫病原糸状菌、農家や行政、市民による対応がサバクトビバッタの大発生を阻止すると思われる。

Q14 今後サバクトビバッタの分布拡大はどうなるのか?

A 今後の気象次第だが、さらなる分布域の拡大が懸念される。今回、サバクトビバッタの被害が生じている地域は、過去にも被害を受けたことがあり、当時、約1か月かけてアラビア半島からニジェールまで約3,500kmもの距離を大群は移動して、西アフリカへとさらに分布を拡大させたこともあった。その時の東側への移動は、インドまでであった。過去の発生は今回の発生よりも大規模だったように思われるが、インドからその先、東方面には移動しなかった。

Q15 現在の防除方法は?

A 化学薬剤又は市販されている昆虫病原糸状菌(Metarhizium属糸状菌)の散布が主流。車両や飛行機を使用し、バッタに直接散布する。なるべく少量の薬剤で散布する工夫(ULV : Ultra Low Volume)がスプレーに施されている。以前は毒餌の利用も検討されたが、頻繁に使われているようには見られない。

Q16 殺虫剤を使用した防除により薬剤耐性は生じないのか?

A サバクトビバッタの場合、移動して、その場に留まらないため、薬剤耐性をもった個体同士が交尾、繁殖する機会は低いため、薬剤抵抗性は発達しにくい。平穏時の孤独相に対しては、殺虫剤散布はほとんど行われないため、こちらも薬剤抵抗性は発達しにくいと考えられる。

Q17 バッタを食べられるか?

A 食べられる。モーリタニア人に聞くと「バッタは食べられるけど、オレは肉のほうが好きだ」とのこと。私はバッタアレルギーのため、異国でバッタを食べて体調を崩したくないため、好き好んで食べることは控えている。それでも食べてみると、硬いもののエビに近い錯覚を抱く。

多くの方々から「バッタを食べたら駆除もできて一石二鳥じゃないですか!」とご意見を頂くが、その前段階の「いかにして効率よく捕まえるか」という課題が残っている。現地の方々は経験的に、バッタは気温が低いと飛べず、動きが鈍いため捕まえやすくなり、手づかみできることを知っている(Maenoら 2018)。気温が低い早朝が採りやすくなっている。しかしながら、大発生の初期は、人里離れた砂漠の奥地でバッタは発生するため、採集に行くのは大変である。街に飛んで来た時が狙い目であるが、近くで殺虫剤散布が始まっている場合があるため、街の側のバッタを食べることは禁じられている。大量発生したバッタを有効活用するために、殺虫剤を使用しない防除技術の開発が望まれている。

ちなみに、サバクトビバッタは、植物に少量含まれるフィトステロール(腸からのコレステロール吸収を抑える機能が知られている)を体内に多く含むため、健康食品として期待されている(Cheseto et al., 2015)

Q18 なぜサバクトビバッタ問題を解決することは難しいのか? 何を改善したらよいのか?

A 防除活動を困難にしている原因として、時間(不定期、突発的)、場所(発生地が広大、アクセスしづらい砂漠の奥地、紛争地帯を含む)、バッタの生態(高い移動能力、広食性、繁殖能力)等が挙げられる

大発生のメカニズムを理解し、予察するための技術開発が必要であるが、野外生態に関する情報が不足しており、どのようなメカニズムで大発生に至っているのか不明な点が多い。

広大なエリアの中からいち早くバッタの発生を発見するため、衛星画像を利用するリモートセンシングの技術開発が進められている。衛星画像は、バッタを直接発見するためというよりは、バッタの発育・繁殖に適した環境(植物の多さ、土壌水分等)を見つけ出すために用いられている(Escorihuela ら2018、Piouら 2019)。国際農研では、現地調査を実施し、より狭い範囲でのバッタの分布パターンの解明に取り組んでいる (Maeno & Ould Babah Ebbe 2018)。様々なレベルでの技術を組み合わせることで、より精度の高い予察モデルの開発が期待される。

Q19 どうしたらサバクトビバッタによる被害を軽減できるか?

A 予算、人材、設備が十分あれば軽減できると思われる。気象や過去の記録からバッタの発生を予測する技術の開発は重要であり(Piouら 2017)、十分な額のバッタ対策費用を継続して確保することが重要である(Gayら 2018, 2019)。バッタの大発生が広範囲にわたってから防除活動した場合、その対策費用は170倍に膨れ上がったことがあった。サバクトビバッタ対策を向上する上で最大の障壁は、バッタの大発生が不定期で、常に問題を起こしているわけではないことがあげられる。常に問題であれば、対策予算も人員も確保しやすいが、何十年も被害がなければ、対策費用は不要とみなされ、廃れてしまう。被害が無い時でも防除体制を維持する工夫がサバクトビバッタ問題解決には不可欠と考える。例えば、モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターでは、バッタがいない時期には他の病害虫対策を受け持ち、社会に貢献しつつ、防除活動のトレーニングを欠かさないなどしている。西アフリカでは2003〜2005年の大発生時に味わった苦い経験を活かし、強固な防除システムを構築し、バッタ被害がない年でも維持されている。今回、東アフリカ、ケニアでは約70年ぶりということで、対策が遅れたことは社会システム上、極めて当たり前のことである。自国だけ強固な防除体制を整備しても、近隣諸国から越境してくるため、国際的な連携が必要となってくる。惨劇を繰り返さないためにも、国際社会が連携し、最低限の防除体制が継続される社会システムの構築が望まれる。加えて、防除対策だけではなく、研究予算の継続も極めて重要である。人々のバッタへの関心が薄れるRecession period(バッタの発生が問題にならない平穏期)をどう乗り切るかは関係者にとっては至上命題であり、研究者たち自ら、書籍などを通じ人々の注目を集め続ける努力をしている(前野 2017、2020)。

Q20 日本はサバクトビバッタ被害に対しどのような支援をしているのか?

A 2020年、外務省はサバクトビバッタ被害に対する緊急無償資金協力を行い、食料支援を含む支援を実施している。

南スーダン,スーダン及びウガンダ(4億9,500万円)(6月23日)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008518.html

ケニア,ソマリア及びジブチ(8億2,500万円)(3月10日)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008343.html

Q21 国際農研ではサバクトビバッタをどのように研究しているのか?

A ほぼ一世紀にわたり、様々な観点から膨大な量の研究がなされてきたが、生息地における野外調査が圧倒的に少なく、未だに野外生態に不明な点が多い。生態解明には防除効率を飛躍的に向上できる可能性がある。国際農研はこの点に着目し、常発生地域の一つであるモーリタニアの国立バッタ防除センターと連携し、野外調査を実施することで、バッタの生態を理解し、その行動習性を考慮した新しい防除技術の開発に取り組んでいる(前野 2020)。例えば、群生相のバッタは集合する性質を持つが、いつ、どこで、どのように集合しているのか、その習性を理解することができれば、少量の殺虫剤で効率よく防除することが可能になる(Maeno & Ould Babah Ebbe, 2018、Maenoら 2018、2019、国際農研 2019)。また、大発生の前兆となる群生相化のメカニズムを理解することができれば、大発生を予知することも可能になるため、群生相化のメカニズムに関する研究も実施している(Maenoら 2020)。私たちは砂漠を熟知したサバクトビバッタ防除センターと協力し、様々な角度から野外におけるバッタの生態を研究することで、環境保全を考慮した持続的な防除システムの構築を目指している。

また、複数のバッタスペシャリストを要し、長年にわたってこの分野をリードしてきたフランス国際農業開発センター(CIRAD)とも連携し、室内実験、シミュレーションなどの取り組みを実施している。また、FAOや他の研究機関との連携も展開している。

このように単独で研究を進めるのではなく、国際的な連携をとりながら、野外生態の解明、防除技術の開発を目指し、活動を進めていきたい。

Q22 なぜ国際農研が外国のバッタ問題を研究するのか?

A 国際農研は日本で最初にサバクトビバッタ問題の研究プロジェクトを行った農林水産省所轄の国立研究開発法人である。「地球と食料の未来のために」を理念に掲げ、安全で高品質な食料を安定的に供給し、開発途上地域の住民の生計向上を図るために日々、試験、研究を行っております。その中の一つの研究課題である「サバクトビバッタの防除技術の開発」は、まさにこの理念と一致しており、日本の国際社会におけるプレゼンス向上に貢献できると考えている。

おわりに

1921年にロシアの昆虫学者、ウバロフ卿が「相」説を唱えてから来年で一世紀となる。この一世紀の間に、国際的な協力の下、様々な知見が蓄積され、防除活動は飛躍的に向上し、大発生を未然に防ぐ、被害を軽減する等、目覚ましい進展がみられている。しかしながら、未だに驚異的な自然災害であることに違いは無い。大発生するたびに巨額の支援金が世界中から集められ、その場をしのいできた。被害を受けている国の多くは経済的に余裕がない国々のため、十分な対策費用を確保するのが難しい現状がある。より強固な国際社会の連携が必要であると考える。さらに今後は、場当たり的な対応ではなく、研究成果に基づく技術対応が必要である。

気候変動に伴う地球温暖化や異常な大雨がどのようにサバクトビバッタの分布や大発生に影響を及ぼすのか、すでに予測技術の開発が進められており(Meynardら 2017、2020)、今後もバッタそのものの研究に加え、多角的な取り組みがなされ、これまでにない連携がブレイクスルーをもたらすことが期待されている。

謎多きサバクトビバッタに絶望する必要はなく、まだまだやるべきこと、打つべき手段は多く、希望は決して失われてはいないことを強く感じている。国際農研は様々な国内外の研究機関と連携し、この地球規模の農業問題に終止符を打つべく、力を合わせて研究プロジェクトを邁進させていく所存である。皆様のご理解、ご協力なくして、この険しい道のりを進むことはできない。国民の皆様からの多くの温かい応援とご支援を力に変え、日本が世界の窮地を救えるよう、関係者一同、精進していきたい。皆様のお力添えを何卒よろしくお願いいたします。

(2020年7月30日作成、不定期で更新)

国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(国際農研)
生産環境・畜産領域 研究員 前野 浩太郎 

参考文献

参考にした文献

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※本掲載記事を引用される場合のクレジット:

前野ウルド浩太郎(2020)サバクトビバッタについて 国際農研Webサイト  2020年7月31日 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/desert-locust

図1 サバクトビバッタ成虫

図1 サバクトビバッタ成虫

図2 サバクトビバッタ孤独相幼虫

図2 サバクトビバッタ孤独相幼虫

図3 サバクトビバッタ群生相幼虫

図3 サバクトビバッタ群生相幼虫