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74. 世界銀行: アフリカにおけるデジタル・テクノロジーの潜在性

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2020年6月、世界銀行はアフリカにおける生産的雇用創出のためにデジタル・テクノロジーの潜在性を開花させる条件について議論した報告書 (The Future of Work in Africa: Harnessing the Potential of Digital Technologies for All) を公表しました。

報告書は、デジタルテクノロジー採用というグローバルなトレンドが、サブサハラ・アフリカにおける雇用の在り方を変革する起爆剤になる可能性を議論しています。世界的には新たなテクノロジーにより雇用が失われる懸念が議論されているところですが、アフリカでは技術水準の低い労働者に機会を与えることで、包括的な開発の推進力になり得ます。ただし、この機会を生かすも殺すも、次の4分野における政策環境整備と生産的投資が行われるかにかかっています。それらは、デジタル技術への包括的支援(enabling inclusive digital technologies); 急速に増大する若年・非熟練労働者層を対象とした人的資源構築(building human capital for a young, rapidly growing, and largely low-skilled labor force);インフォーマル部門労働者や企業の生産性向上(increasing the productivity of informal workers and enterprises); 労働市場におけるショックを和らげるための社会保障の拡充(extending social protection coverage to mitigate the risks associated with disruptions to labor markets)。 

世界銀行が編纂した「世界開発報告2019」(The Changing Nature of Work)では、世界的なトレンドとして、自動化の波にさらされる「古い」製造業セクター対、イノベーションによる雇用創造を享受する「新しい」セクターの間での緊張感により、将来の雇用の在り方が規定されると議論しました。アフリカでも同様のことが起きるでしょうか。簡潔に言うと否、です。今日の状況から想定すると、この地域は世界のほかの地域とは対照的に異なる発展を遂げる機会に恵まれています。もしデジタル・テクノロジーを上手く手懐けることができれば、技術の採用は、全てのアフリカ人にとって雇用の在り方を転換する機会を提供するでしょう。

サブサハラ・アフリカは、技術採用率の低さに代表されるように、その他の地域と幾つかの点において異なります。その他の国々では自動化が既存・新規雇用の喪失をもたらす可能性がありますが、アフリカの製造業セクターはずっと小さく、自動化によって失われる雇用は少なくて済みます。アフリカの多くの経済では、未だに加工食品・観光・小売・宿泊飲食サービス業への需要が低く、新規テクノロジー採用による費用・価格低下によって消費者からの需要増を期待でき、またアフリカで生産されるかぎり、企業成長、雇用創出、多くの消費者にとって手に入る価格帯の製品生産の拡大、が期待されます。多くのアフリカ人労働者の教育水準は低く、インフォーマルな仕事に従事しており、彼らのニーズにあった技術の設計は、よりよい教育と所得を得る機会を提供するでしょう。多くのアフリカ経済では、「古い」も「新しい」もなく、全セクターを通じてイノベーションと成長の伸びしろが見込まれています。

アフリカでは、デジタル・テクノロジーは少数の特権層だけでなく、教育水準が低く機会に恵まれないグループも含めた全労働者のスキル向上と、インフォーマル部門を含めた全企業における生産性改善と雇用創出を推進する潜在性を秘めています。最近の研究では、アフリカにおけるインターネット速度の向上は、大学卒の労働者のみならず、最終学歴が初等教育である労働者の雇用も増加したことが報告されています。

デジタル・テクノロジーによる可能性を現実化するには、本報告書が「アナログ補完analog complements」と呼ぶところの政策体系の確立が必要です。これらは競争(competition)、資本(capital)、能力(capacity)、の頭文字をとり、アフリカの3C(“three Cs”)政策に相当します。また、アフリカがデジタル・トランスフォーメーションへと踏み出す上で、3E(“three Es”)政策が必要です。それらは、起業精神の支援(enable entrepreneurship)、インフォーマル部門の生産性向上(enhance the productivity of the informal sector)、そして社会保障の拡充です(expand social protection coverage)。

アフリカの雇用の未来は明るいはずです。ただし、そのためには、次世代のアフリカ労働者・投資家・企業がイノベーションを通じた繁栄を享受する道筋の構築に向けて、今日の政治家やビジネス部門が投資を行う決断ができるかにかかっています。

 

参考文献

Choi, Jieun; Dutz, Mark; Usman, Zainab. 2020. The Future of Work in Africa : Harnessing the Potential of Digital Technologies for All. Africa Development Forum. Washington, DC: World Bank. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/32124

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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