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71. 土地利用変化と新規人獣共通感染症

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2020年6月にMammal Review誌に公表された論文「哺乳類由来の新規人獣共通感染症:人為的土地利用変化の影響に関するシステマティック・レビュー Emerging zoonotic diseases originating in mammals: a systematic review of effects of anthropogenic land‐use change」では、森林破壊、都市化、農業集約化などの人為的土地利用が、哺乳類から人間への人獣共通感染症の感染に与えた影響に関するシステマチック・レビュー※の結果を発表しました。

本論文がレビューした研究は、げっ歯類、家畜、肉食動物、人間以外の霊長類、コウモリ、など、様々な哺乳類をカバーしています。動物から人間への人獣共通感染症の拡散は、農業の集約化に関連しています。例えば、Q熱*の有病率はヒツジやヤギの飼養密度と関連しています。とくに、多くの家畜を狭い空間に閉じ込める商業畜産システムは病原菌の拡散をゆるします。

この他、森林破壊や都市化も人獣共通感染症の要因として挙げられます。両者とも、げっ歯類の生息地と個体数動態に影響を与え、ペスト菌が再発現するリスクを高めます。

世界人口の拡大と資源への需要増大に伴い、森林破壊、都市化、農業集約化など人為的土地利用変化が進行すれば、今後も人獣共通感染症の病原菌拡散と感染リスクは高まるでしょう。研究を概観すると、家畜は農業集約化との関係、肉食動物は都市化と寄生虫との関係、コウモリは森林破壊とウイルスの関係、霊長類は生息地の分断と原生動物との関係、を通じて分析される傾向があります

人獣共通感染症がいかに発現し、人為的土地利用変化に応じて拡散するのかを予測するには、宿主となる生態系と病原菌体系、病気の拡散の関係について、さらなる実証研究・総合的なデータ解析が必要です。COVID-19パンデミックは、人為的な土地利用変化が原因となり、哺乳類由来の人獣共通感染症が人類に拡散するリスクを理解する喫緊の必要性を炙り出しています。

 

※システマティック・レビュー:ランダム化比較試験(RCT)などの質の高い複数の臨床研究を,複数の専門家や研究者が作成者となって,一定の基準と一定の方法に基づいてとりまとめた総説

*Q熱:(Wikipedia) Q熱(Q fever)とは、人獣共通感染症の1つ。ニュージーランドを除く全世界で発生が見られる。Q熱という病名は、英語の「不明 (Query) 熱」に由来している。1935年にオーストラリアの屠畜場の従業員間で原因不明の熱性疾患が流行したのが、最初の報告である。日本においても年間30例程度のヒトの症例報告がある。

 

参考文献

White, R.J. and Razgour, O., Emerging zoonotic diseases originating in mammals: a systematic review of effects of anthropogenic land‐use change. Mammal Review, Early View. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/mam.12201

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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