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42. 新型コロナウイルス・パンデミック ―国連環境計画 (UNEP): 環境破壊と人獣共通感染症 (zoonotic diseases)

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2020年5月17日現在、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の感染者が463万人に達しています。2016年に国連環境計画 (UNEP)が公表した報告書では、今後深刻化する環境課題として、持続的開発促進のための金融部門の役割;フードシステムにおけるマイクロプラスチック問題; 気候変動によるエコシステムへの影響; 気候変動時代における作物の毒素蓄積; 野生動物の不法取引、と並び、人獣共通感染症 (zoonotic diseases) とエコシステム健全性の曖昧な境界線、が挙げられていました。以下、報告書の議論を紹介します。

20世紀はかつてない生態系変化の時期であり、自然生態系や生物多様性が劇的に失われるのと表裏一体で人口と家畜が増加しました。その結果、今日までに、世界的に野生動物から家畜への病原菌感染、そして人間への人獣共通感染症が広がりました。全ての新規感染症の75%、人間が罹患する感染症の60%は人獣共通感染症とされ、平均4か月ごとに人間への感染症が現れます。感染症の多くは野生動物に起因しますが、家畜も野生動物と人間の間で疫学的媒介の役割を果たします。とりわけ感染症は集団・群内で遺伝的に似通った集約的家畜経営と関連しますが、これは品種改良において感染症への抵抗性よりも生産性を優先した結果でもあります。家畜が「感染症の橋渡し」となった例としては、野生の鳥からニワトリを通じて人間に拡がった鳥インフルエンザ病原菌があります。

人獣共通感染症の発現は、農業集約化や人間の居住、森林などの生態系への侵入など、環境変化や生態系の攪乱と関わっています。人獣共通感染症は日和見的でもあり、環境・社会・経済的ストレス下に置かれた宿主に影響を与えます。

人獣共通感染症は経済開発を脅かします。過去数年間に複数の新規人獣共通感染症がパンデミックをもたらし、あるいは引き起こすうるとして、世界的に報道されてきました。エボラ、鳥インフルエンザ、中東呼吸器症候群MERS、リフトバレー熱、重症急性呼吸器症候群SARS、ウェストナイルウイルス、ジカウイルス、などです。これらを引き起こす病原菌は長期にわたり野生動物を宿主としてきました。過去20年間、これらは1000憶ドル以上のコストを伴ってきましたが、もしアウトブレイクがパンデミックをもたらしていたならば、その損失は数兆ドルにも及んでいたことでしょう(現在COVID-19で現実となっているわけですが)。

その他にも重要な人獣共通感染症に、サルモネラやリステリアなどの食物媒介性の病原菌があります。2015年、初の世界的な食物媒介性疾患の評価が行われ、その影響はマラリアや結核の被害に匹敵すると報告されました。

一つの病原菌が急激に広まったり支配的にならないよう、多様な種を維持する生態系の統合(ecosystem integrity)は、感染症のコントロールに貢献します。人口の増加に伴い、生態系は変化します。森林は伐採され、農業や鉱業開発のために土地は切り開かれ、かつては人間と病原菌を宿す動物との間の緩衝地域となってきた生態系は明らかに減少あるいは喪失しています。人獣共通感染症は、環境・農業・保健の3分野にまたがりますが、しばし相互独立して連携の仕組みがなく、感染症対策のための政策協調の枠組みは弱いと言わざるを得ません。人獣共通感染症コントロールの成功には、賢明な法的・政策的枠組み、よく機能する制度、十分なファイナンス、迅速な検出システム、介入実施プラン、が必要です。

人獣共通感染症コントロールにおいて農業を巻き込むうえでの制約は、医学と獣医学専門家による協力体制がなく、人獣共通感染症への懸念が脇に追いやられている状況にあります。公共衛生の便益に比べ、人獣共通感染症コントロールの費用は莫大に見えますが、農業分野・野生動物・社会への便益を考慮すれば、便益の方が上回ることは明らかです。

 

参考文献

UNEP (2016). UNEP Frontiers 2016 Report: Emerging Issues of Environmental Concern. United Nations Environment Programme,Nairobi. https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/7664/Frontiers_2016.pdf?sequence=1&isAllowed=y

Pick Up 21. 新型コロナウイルス・パンデミック ― アースデイと生物多様性 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200422

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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