Pick Up

52. 新型コロナウイルス・パンデミック -アフリカにおけるフードサプライチェーン

関連プログラム
情報収集分析

アフリカ開発研究、とくに農業・食料問題の分野で多くの成果を挙げるミシガン州立大学の研究者(Thomas Reardon & Saweda Liverpool-Tasie)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とアフリカにおけるフードサプライチェーン(food supply chains: FSCs)に関して、4つ事実と、そこから導き出される示唆について議論しています。

第一に、アフリカの消費者にとり、FSCsは極めて重要です。アフリカで消費される食料の平均80%がFSCsを通じて購入されており、自給自足は20%にとどまります。80%の根拠は以下の通りです。(1)アフリカにおいて消費される全食料の60%が都市消費者によるものである;(2)アフリカで消費される全食料の40%が農村世帯によるものである。このうち50%が自らの食料を生産し、残りの50%は購入する;(3)したがって、60%+20%が国レベルで消費される食料のうち購入による割合となる。

第二に、FSCsは主に中小企業(small and medium scale enterprises -SMEs)によって構成されています。アフリカのFSCsにおける食料供給の85%程度がSMEsによって取り扱われており、アフリカのSCS全体で数百万のSMEsが関わっていると考えられます。SMEsの集合体による巨大セクターと共存しているのが、新興してきたスーパーマーケット、加工業者、ファーストフードチェーンであり、アフリカ食料経済の15-20%を占めます。

第三に、国内のFSCs供給はアフリカ食料市場の80-90%を占め、輸入は10-20%です。よって、輸入も重要ですが、国内FSC部門が最大のシェアを握り、政策的に着目されるべきです。

第四に、FSCsはアフリカにおける都市・農村雇用にとって重要な役割を果たします。アフリカ数か国のデータに基づき推計したところ、フルタイム雇用に換算すると、農村世帯の40%が自家農業、5%が農業賃労働、20%が農作業以外のFSCでの雇用、35%が非FSC・非農業農村雇用、に携わっていることが判明しました。都市部門では、フルタイム雇用換算で、25%が農作業以外のFSC雇用、65%がその他非農業雇用であると推計されました。

以上4つの事実から示唆されるのは、アフリカにおける食料の65%がSMEsを通じて流通していること、そしてその過程で多くの雇用を生み出し、人々の生活を支えていることを踏まえれば、アフリカにおける食料アクセスを維持する上で、SMEsセクターが供給者・雇用者として機能し続けることが大事であり、COVID-19危機におけるアフリカFSCs支援政策・戦略のための現実的なコンテクストとして着目されるべきです。

研究者は、SMEsを対象とした投入財やロジスティクスへの支援、インフラ維持・更新への投資、低金利融資の提供などを提言しました。政府やドナーは、消費者への直接食料配給だけではアフリカ食料消費の5%しかカバーできず、民間のFSC分野が80%のアフリカ食料供給に関わっていることを認識すべきとしました。アフリカへの食料援助を現在の水準の2倍にしたとしても、アフリカが必要とする1週間分の食料にしかなりません。よって食糧支援はFSCがカバーできない部門にターゲットを絞り、モバイルマネーでの支給を検討し、政府による配給がFSCsの機会を奪わないよう、むしろ民間商店からの調達等、官民連携を通じて行われるべきである、としました。

 

参考文献

Michigan State University. Thomas Reardon & Saweda Liverpool-Tasie - May 18, 2020 CRUCIAL FACTS FOR FOOD SUPPLY CHAIN POLICIES IN COVID-19 CRISIS Department of Agricultural, Food, and Resource Economics Food Security Group  https://www.canr.msu.edu/news/policy-strategies-to-support-african-food-supply-chains-in-and-after-the-covid-19-crisis

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

関連するページ